第15話 再会
崖の上でムルシエルを叩き落とした後、マークとベンケイの霊体は、洞窟へと続く道を急いでいた。
その途中――
「ビーストモード」のゾールが再び立ちはだかったが、憑依状態のマークの敵ではなかった。
「まだやる気か!」
「グアアアッ!!」
一撃で吹き飛ばされ、ゾールはそのまま気を失って動かなくなった。
「よし……先を急ぐぞ」
マークが振り返らずに駆け出した、その先――
洞窟の入り口の手前に、氷像となった何かが転がっていた。
「……これは」
近づいて、マークは息を呑んだ。
鉄球を握りしめたまま、完全に凍りついた男の姿。
「ウシワカだ」
ベンケイの声が、震えた。
「あいつ、こんな……!」
***
「じいさん、こいつが……」
「ああ。わしの……大切な仲間だ」
ベンケイの霊体の声に、深い悲しみが滲んでいた。
マークは、拳を握りしめた。
「――待ってろ」
短く言うと、氷に向かって拳を振り上げる。
「うおおおおおおっ!!」
バキィィィィンッ!!
一撃で、氷が粉々に砕け散った。
「ゴホッ……ゴホッ……」
咳き込みながら、ウシワカが目を覚ます。
「お前……」
「じいさんの知り合いか。ウシワカ、だよな」
ウシワカは朦朧とした目でマークを見上げ、それから――その隣に浮かぶ半透明の姿に気づいた。
目が、大きく見開かれる。
「……ベンケイ……!?」
「久しぶりだな、ウシワカ」
ベンケイが、穏やかに笑いかけた。
「な、なんで……お前、幽霊に……」
言いかけて、ウシワカの声が詰まった。目の前の存在が「生きていない」ことに、ようやく気づいたのだ。
「まさか……お前……死んだのか……!」
「……ああ」
ベンケイは、静かに頷いた。
「お前を守るために、な」
***
ウシワカの顔が、くしゃりと歪んだ。
「なんでだよ……! なんで、お前が死ぬんだよ……!」
叫びながら、両手で頭を抱える。
「俺は……! 俺は、あいつを守るために……! ファントマの犬になったんだぞ……! それなのに……!」
長年、心の奥底に押し込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出す。
「お前を守るために従ってきたのに……その、お前が……!」
「ウシワカ」
ベンケイが、静かに名前を呼んだ。
「お前のおかげで、わしは十年、心穏やかに暮らせた。……感謝してる」
「そんなの……そんなの、望んでねえよ……!」
涙をこぼしながら、ウシワカは拳を地面に叩きつけた。
その痛みを、マークはただ黙って見つめていた。言葉をかけられる立場ではないと分かっていた。
***
「ウシワカ」
しばらくして、マークが静かに口を開いた。
「ファントマは、洞窟の奥にいるんだよな」
ウシワカは、涙を拭いながら頷いた。
「ああ……。さっき……先に、不法侵入者を始末したって、言ってた」
「不法侵入者……?」
「小型の電気恐竜みたいな奴だったって……」
マークの表情が、瞬時に凍りついた。
「……ビビット?」
その名を口にした瞬間、全身の血が沸き立つのを感じた。
「くそ……!」
「坊主、待て――」
ベンケイが止めようとしたが、マークは既に洞窟へと駆け出していた。
「ビビットが……!」
暗い洞窟の入り口へ向かって、その背中が吸い込まれていく。
「あいつを傷つけたやつは……絶対に、許さねえ!!」
叫び声が、洞窟の奥まで反響した。
***
残されたウシワカが、ゆっくりと立ち上がる。
「……ベンケイ」
「なんだ」
「俺も、行く」
涙を拭い、鉄球を握り直した。
「あの坊主に……ファントマの化け物じみた強さを、教えといてやらねえとな」
「そうこなくちゃな」
ベンケイの霊体が、嬉しそうに笑った。
ウシワカもまた、洞窟の暗闇へと足を踏み入れた。
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