第14話 イズマという男
洞窟の奥にビビットを運び込んだウシワカは、重い足取りで外へと戻ってきた。
「……また一人、犠牲にしちまったか」
自嘲するように呟く。手には、まだ小さな電撃の痕が残っていた。ビビットが最後まで抵抗した証だった。
「悪いことしたな、あの恐竜野郎……」
洞窟の外に出て、大きく息を吐く。
その時――
「――おい」
低い声が、背後から聞こえた。
***
振り返ると、氷の銃を構えた少年が立っていた。冷たい目が、じっとウシワカを見据えている。
その足元には、氷を纏った巨大なチーターが控えていた。
「……誰だ、お前」
「クリスタルの気配がする。この洞窟の奥からだ」
少年――イズマは、感情のない声で答えた。
「案内しろ。それとも、力ずくで通るか」
「……悪いが、通すわけにはいかねえ」
ウシワカは鉄球を構えた。
「ここから先は、俺が守らなきゃいけねえ場所だ」
「そうか」
イズマは短く言うと、銃口を向けた。
「なら、力ずくだ」
***
戦いは、一瞬で始まった。
「マイル!」
イズマの合図とともに、氷のチーターが地を蹴った。想像を絶する速度で、ウシワカの視界を撹乱する。
「くっ……速い……!」
鉄球を振り回すが、空を切るばかりだった。
「隙だらけだ」
背後から、冷たい声。振り向くより早く、イズマの銃口が突きつけられていた。
「……終わりだ」
パァンッ!!
放たれた氷弾が、ウシワカの肩に突き刺さる。
「がはっ……!」
体の半分が、瞬時に凍りついていく感覚。
「くそ……こんな、ところで……!」
膝をつきながらも、ウシワカは鉄球を振るった。渾身の一撃が、マイルの脚を掠める。
「――甘い」
しかし、その程度ではイズマたちの動きを止めることはできなかった。
マイルが再び跳躍し、ウシワカの周囲を高速で駆け巡る。目で追うことすらできない速さだった。
「な、なんだよ……この、化け物じみた連携は……」
「お前が守っているものが、そんなに大事なら――」
イズマが銃を構え直しながら、静かに告げた。
「もっと強くなってから、出直すんだな」
***
最後の一撃が放たれた。
「がああああっ……!!」
全身を氷が包み込む感覚。抵抗する間もなく、ウシワカの体は完全に氷像と化していった。
「……終わったか」
イズマは、銃口の煙を払うように吹いた。
その視線が、洞窟の奥へと向けられる。
「この気配……間違いない。この先に、クリスタルがある」
一歩、踏み出そうとした――その時。
ふと、イズマの肌が粟立った。
「……なんだ、この気配」
洞窟の奥から漂ってくる、圧倒的な何かの存在感。
怒りとも、悲しみとも取れる、剥き出しの感情が、地響きのように伝わってくる。
「これは……」
イズマは、洞窟の奥から近づいてくる気配を感じ取り、崖の影に素早く身を隠した。
「……厄介なのが来る」
物陰から、じっと様子をうかがう。
やがて――洞窟の入り口の方角から、獣のような雄叫びが響き渡った。
「ビビットォォォォォッ!!」
その声を聞いた瞬間、イズマの目が僅かに細まった。
「……あれが、噂の」
氷像となったウシワカを一瞥し、イズマは静かに呟いた。
「マイル。今は退くぞ」
チーターの背に飛び乗り、イズマはその場を音もなく去っていった。
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