第3話『未来が変わるカガミ』上
朝、キンコーンという音で目を覚ます乃ノ子。
寝惚け眼で見るスマホにはイチからのメッセージ。
イチ『起きろ、伝説の乃ノ子っ。
次の都市伝説を探してこいっ。
お前が都市伝説になりたくないのならなっ』
乃ノ子(伝説の乃ノ子……。
なんか厨二病感が増している)
乃ノ子、ぽちぽちと打ち返す。
乃ノ子『いや、私、昨日頑張ったじゃないですか。
確かに写真は撮りそびれましたけど』
イチ『撮りそびれるどころか、お前、マスキングテープで塞いでるだろ、カメラ』
乃ノ子(こわ、お見通しかっ。)
マスキングテープを外す。
乃ノ子『でも、イチさん。
昨日、カメラ塞いでたのに、こっちの様子わかってたみたいですけど』
イチ『なんだお前。俺がカメラから覗いてると思ってたのか。
俺は心の眼で見てるんだ』
乃ノ子『……あの、どうせなら、イケメン芸能人様の爽やかなメッセージで目覚めたいんですけど。
ジュンペイさんのAIは何処に行ってしまったんですか』
イチ『なんだ、イケメンに起こして欲しいのか。
心配するな、俺はイケメンだぞ』
乃ノ子『いや、見えないんで、なんとでも言えますよね~』
乃ノ子(返事がない……。この間に着替えよう)
ベッドから立ち上がる乃ノ子。
パジャマを脱ごうとして、はたと気づく。
乃ノ子(待てよ。もしかして、着替えてるところもイチさんから見えているとか?)
乃ノ子、部屋の隅に行ってみる。
着替えながら考える。
乃ノ子(いや、心の眼で見られているのなら、何処に行っても無駄か……。
でも、イチさん私の着替えになんか興味ないか。
AIなんだろうしな)
ベッドに投げたスマホを見に戻ると、イチからのメッセージが入っている。
イチ『お前が都市伝説を集め続けていれば、いつか俺と会うこともあるだろうよ』
乃ノ子(条件そろえたら復活してくる魔王みたいだ……。
だったら、都市伝説集めない方がいいのでは?)
乃ノ子『わかりました。
頑張りまーす』
可愛いにゃんこが頭を下げているスタンプ送って、ポイとまたベッドに投げる。
乃ノ子、学校に向かう。
乃ノ子(……AIにイケメンとか言われてもな。)
陸橋を通り過ぎ、お弁当屋さんの方を振り返ると、あの自動販売機が視界に入る。
紀代「乃ノ子ーっ」
顔を上げると、紀代が陸橋の方からやってくる。
紀代「おはよう、乃ノ子。
ねえ、そういえば知ってる?」
乃ノ子(なにやら都市伝説でも始まりそうな語り出しだな。)
紀代「ジュンペイのチャットアプリがあるの知ってる?
朝、おはようって言ったら、おはようって返してくれるし、おやすみって言ったら、おやすみって返してくれるのっ。
もちろん、機械が応答してるだけなんだけどさ。
結構いいよ」
楽しそうな紀代。
乃ノ子(そうそう……。
私もそういう平和なアプリを入れたはずだったんだけどね。)
乃ノ子「私もそのジュンペイのアプリ、入れてたんだけど、消えちゃったんだよ。
不具合があったみたいで。
あ、そうだ、紀代。
ジュンペイに都市伝説の話してみてくれない?
あ、それで、ジュンペイが消えたら、ごめんなんだけど」
紀代、渋い顔をする。
紀代「なんで消えるのよ。
愛しのジュンペイが消えるのは嫌よ」
乃ノ子「それで、ミニゲームみたいなのが始まって、ちょっと変になっちゃったのよ」
紀代「ミニゲームかあ。面白そうね。
まあ、消えたら、また入れればいいか」
紀代、『都市伝説』とだけ、打ち込む。
すぐにジュンペイから返事。
ジュンペイ『都市伝説、知ってるよ、僕も』
乃ノ子(イチさんに切り替わらない……。)
ジュンペイ『君も知ってる?
『疾走するさっちゃん』って話』
乃ノ子(――えっ?)
ジュンペイ『さっちゃんって人形が猛スピードで街を走ってるんだって。
たまに道で遭遇できるらしいよ』
あはははは、と笑っているジュンペイの写真のスタンプが入ってくる。
紀代「あっ。なにこれっ、新作スタンプッ?
うそっ。買わねばっ」
紀代、声に出しながら打つ。
紀代「『それ新作スタンプだね。
帰ったら、すぐ買うねーっ』」
ジュンペイ『ありがとう』
ジュンペイ、ぺこりと頭を下げているスタンプ。
紀代「いやーっ。ジュンペイがぺこりってっ。
ぺこりって頭下げてるわっ。
買うわっ」
紀代を眺める乃ノ子。
乃ノ子(……気持ちよく宣伝に乗せられてる。
それにしても、なんで、『疾走するさっちゃん』?
あれ、言霊町限定の都市伝説みたいなのに。
スマホのGPS機能でユーザーのいる位置を特定して、その地域の都市伝説を語ってるとか?
それか意外と、ジュンペイさんの事務所か、ジュンペイさんのアプリを管理している会社が言霊町にあって、それで、たまたま知ってたとか?
……調べてみるかな。)
だが、紀代に急かされる。
紀代「ほらー、早くっ。
遅れるよーっ」
乃ノ子「あ、うん……」
乃ノ子、出しかけたスマホをしまう。
授業中、乃ノ子、ぼんやり黒板を見ている。
乃ノ子(ジュンペイのチャットアプリと都市伝説アプリは、やはり関係あるのだろうか。
紀代が都市伝説と入れても、イチさんのアプリが動き出さないのはなんでなんだろう?)
放課後、あのお弁当屋の前を通る乃ノ子。
横にいる友だちが言う。
友だち「ねえねえ、ムラサキカガミって知ってる?」
乃ノ子「あ、教えたな?
その言葉、二十歳まで覚えてたら死ぬって言うんじゃなかったっけ?
殺人だっ!」
笑う友だち。
友だち「他にもあるよ。紫の亀とか」
乃ノ子「紫多いね」
友だち「黄色のハンカチとか」
乃ノ子「それ、幸せになるんじゃなかったの?
そんな感じの映画があったよね」
友だち「あと、赤い沼とか。
メリーちゃん人形を覚えてると死ぬっていうのもあるよ」
乃ノ子、苦笑い。
乃ノ子「さっちゃん人形なら、しばらく忘れられそうにないけどね。
でも、集めるの、言霊町の都市伝説じゃないと駄目みたいなんだよね」
友だち「一般的なものでも、言霊町でその怪異が起こればいいんじゃないの?」
乃ノ子「わかんないから、とりあえず、色を変えてみようかな。
他の色の鏡にするとか」
友だち「ゴールデン鏡とかは既にあるよ」
うーん、と唸る乃ノ子。
乃ノ子「家に返って、百色色鉛筆を見ながら考えてみる」
笑う友だち。
友だち「じゃあ、私、こっちだから」
友だち、渡ってはいけないはずの横断歩道を渡って帰っていく。
乃ノ子、陸橋の上を歩きながら考える。
乃ノ子(うーん。なんにしようかな、色。
なでしこ色の鏡。可愛すぎるな。
バナナ色の鏡。……ちょっと陽気な感じがするな)
陸橋の真ん中辺りで、ふと足を止める乃ノ子。
夕暮れに染まる街を見下ろし、呟く。
乃ノ子「今日は、さっちゃんは疾走してないみたいだな~」
寝る前、部屋でイチに報告する乃ノ子。
イチ『ムラサキカガミ?
ああ、二十歳まで覚えてたら死ぬとかいうやつな。
それ、言霊町関係ないだろうが』
乃ノ子『なので、他の色の鏡の話を作ろうと思ったんですけどね。
ゴールデン鏡とかは、すでにあるみたいなので』
イチ『……その都市伝説はどんな話になる予定なんだ』
乃ノ子『どんな話にしましょうか?
二十歳までに死ぬとか、あまり感じよくないですよね』
イチ『感じのいい都市伝説ってどんなんだ。
そもそも俺なんて、二十歳超えてるから、そんなの聞いても怖くもなんともないし』
乃ノ子(二十歳超えてるんだ?
まあ、仕事してる設定みたいだしな。)
従姉の
友子『乃ノ子、土曜ヒマ?』
乃ノ子『あ、ヒマヒマ』
乃ノ子、ふと思いつき、訊いてみる。
乃ノ子『ねえねえ。なんか怖い鏡の話とかない?』
友子『ああ、あるよ』
乃ノ子「えっ?」
友子『その鏡を見ると、未来が変わってしまうのよ――。
あ、ごめん。
お湯溜まったみたい。ちょっとお風呂入ってくるわ』
乃ノ子「あ、うん」
そのまま友子からの返事はない。
乃ノ子(長いからな、友ちゃんのお風呂。
いや、忘れて寝ちゃったかな。)
イチからメッセージが入ってくる。
イチ『こらーっ、腹黒乃ノ子ーっ』
乃ノ子(しまった。
イチさん、放置してた。)
イチ『今、誰かと連絡とってたたろ。
なんかいい話聞けたのか?』
乃ノ子『見ると、未来が変わる鏡の話を聞きました』
イチ『そうか。それはなかなか面白い。
言霊町の都市伝説なんだろうな?』
乃ノ子『たぶん。従姉の家も大学も言霊町なんで』
イチ『そうか、腹黒乃ノ子。
詳しく話を聞いてこい』
乃ノ子『わかりました。禁断のイチさん』
乃ノ子(これで貴方も厨二病仲間。)
イチ、動じず。
イチ『そうだな。
俺に恋はするなよ、禁断の恋になるぞ。
じゃあな』
乃ノ子(なにが禁断の恋ですか。
AIに恋なんてしませんよーだ。)
乃ノ子、スマホをベッドに投げる。
翌朝。
目を覚ます乃ノ子、友子からメッセージが入っている。
友子『その鏡、うちの大学の部室棟の入り口にあるの。
人の未来を変えて、運命を狂わせる鏡よ。
土曜日、ランチ行くついでに見せてあげるわよ。
まあ、あんたの未来は変わらないと思うけどね』
乃ノ子(人によって未来が変わったり変わらなかったりする鏡ってなんなんだろうな?)
イチにメッセージを送る。
すぐにキンコーンと鳴る。
乃ノ子(うわ、来たっ。)
イチ『土曜だ? なに呑気なこと言ってるんだ。
その大学は従姉とやらがいないと入れないのか?』
乃ノ子『いや、そんなこともないと思いますけど』
イチ『じゃあ、今夜行け』
乃ノ子「ええーっ?」
イチ『お前、今日、勉強なんてやりもしない、行き帰りにコンビニ寄って菓子食ってるだけの塾があるだろ』
ひっ、と乃ノ子、息を呑む。
乃ノ子(何故、それをっ!)
イチ『親には塾に行くと言い、友だちと塾には用事ができたから休むと言え。
勉強なら今度俺が教えてやるから。
ちょっとその鏡とやらを覗きに行ってみよう。
ついて行ってやる』
乃ノ子「えっ?」
イチ『夜なら空いてるから』
乃ノ子『スマホの中から見てるってことですか?』
イチ『莫迦か。それに、なんの意味があるんだ。
夜は危ないからついてってやると言ってるんだ。
俺の携帯の番号教えてやるから、かけてこい』
本当に携帯の番号が送られてくる。
イチ『塾サボれたら電話しろ』
そのままスマホ、しんとなる。
乃ノ子(今、はっきり、イチさんの番号だと言われたのに。
この番号にかけたら、なにが出るんだろうな、と思ってしまった。)
乃ノ子の妄想。
電話をかけると、
「もしもし、私、イチさんよ」と言い出す。
夕方。
乃ノ子、図書館裏の公衆電話から教えてもらった番号にかけてみるが無音で誰も出ない。
もう一度、かけてみる。
外から聞こえる虫の音とは別に微かな話し声が聞こえてくる。
耳を受話器に寄せてみる乃ノ子。
誰かがブツブツ言っている。
最初は聞き取れなかったその声が、
「よね……っ!」
と叫ぶ。
だが、大きすぎて聞こえない。
乃ノ子、ガチャンと電話を切り、イチにメッセージを送る。
乃ノ子『イチさん、電話通じません』
すぐに返事が来る。
イチ『休めたのか? 塾。
って、全然鳴ってないぞ、俺の携帯』
乃ノ子『でも、今かけたんですよ。
図書館の外にある、この世ならぬところにかかるという公衆電話からかけてみたんですが』
イチ『普通に電話してこいっ!』
乃ノ子(いや……その方が通じそうな気がしたんで。)
イチ『昨日送ったメッセージに出てる電話番号、クリックしてかけてこいっ』
乃ノ子、普通にクリックしてかけてみる。
イチ「乃ノ子か」
乃ノ子「……えっ? 誰なんですか?」
イチ「イチだ。他に誰が出るんだよ」
乃ノ子「AIがしゃべった……」
イチ「AIは普通にしゃべるだろ。
ま、俺はAIじゃないが」
乃ノ子「……よくできたAIですね」
イチ「だから、AIじゃねえっつってんだろ。
だが、すまん。ちょっと用事ができて、すぐには行けそうにないんだ。
どうする? 少し待ってるか?」
乃ノ子(えっ? イチさんが此処に来る?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます