絶望の淵を掴めなかった人

@Raiff

見上げられない

 彼は希望を全て失った。拠り所を失い、彷徨っていた。薄れつつある視界に見えたものは、地表の下に若干埋もれ、ひっそりと空虚を携えるコンクリートの部屋だった。地上の光がひとつの窓から差し込んでいる。その光は、暗澹とした空間のそのまた闇に潜むような、陰湿な角を皮肉にも意義深く魅せている。

 それは地上からの光。卑しいもの。地上の眩しさにやられ、靉靆たる場に逃げてきたものの、彼は諦めきれない。しかし、見ようと思えば抵抗があり、見ればやはり心は打ち砕かれる思いをする。

 多くの人の姿や感情が入り交じって彼を突き刺していく。もはや隠す感情は無いものの、公に晒すことも公で暴れることもなく、暗闇で必死に吐くように自己卑下と嫌悪感の連続を吐露することしかできない。言葉には表せない程の、悲愴、鬱、落胆、憤怒、後悔が全て心に渦巻いている。消えることなく、むしろさらに強まって、彼の心を蝕んでいるのである。

 この光からは何も見いだせない。他人の幸福を横目に流そうが、恩恵をもらおうと無謀ながらに必死になろうが、恨みを募らせようが、無傷である。彼はどうすることも出来ない。

 果たして彼は置いていかれたのか、それとも自分自身を社会から引き離したのか。ただ、運命がそうさせたに違いないと、彼は思ったそうだ。

 ……部屋に差し込む卑しい光に狂わされたのか、彼はいつからか一切光の方を向かなくなった。光の存在は感じながら、完全に無視するフリをしている。絶望の淵に自ら進んだ嫌悪感、陥落したかのような自分の人生に対する悲愴感、その二つを筆頭に彼は蝕まれ続けた。

 地上に戻る選択肢も失った彼は、全ての感情のやり場を失い、既に彼は大きく歪んでいた。ついに、彼は自分で自分の頭を壁に打ちつけ始めた。自己嫌悪や絶望、後悔が大きくなるにつれ徐々に傷も大きくなり、頭にも目にも傷が広がるようになった。それと同時に帽子を前に寄せ、怪我を覆うためもあるのか、自分から視界を遮るようになった。さらに被さった帽子の上からも荒々しく壁に叩きつけた。傷口は大きくなるばかりで、頭は削れ始めた。

 吐き気がすることも多くなり、部屋の隅に、光が当たらないところに吐いていた。もはや正常な判断が出来る訳もなく、頻度は極限まで上がり、常に頭を打ち付けるようになった。重い頭の当たる鈍い音は耳に伝わるのと同時に、異常な程に静かな部屋に響き渡る。

 彼はずっと自分へのねじ曲がった思い込みを責め立て、それすらも歪んだ考えでねじ伏せている。頭を打ち付ける行為は意味のあるものになるか?吐いても楽にならない彼に楽園はやってくるのか?大きく歪んだ顔と心は代償の証となるのだろうか?

 ……これら全ては、彼はわかっているはずだった。

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