エピローグ

あれから、5年の月日が流れた。


私と結菜ちゃんは、今では同じ大学に通っている。

あの悲しみを共に乗り越え、湊くんの優しさを引き継いだ私たちは、文字通り「心の友」となって、いつも一緒に過ごしていた。


今日は、湊くんの命日。二人で一緒にお墓参りに行くことになっていた。

私は結菜ちゃんとの待ち合わせ場所へと、少し早足で急ぐ。


「……綾瀬さん、好きです! 付き合ってください!」


大学の敷地内、いつもの待ち合わせ場所に近づいたとき、男の人の大きな声が聞こえて足を止めた。

見れば、見事なまでのイケメンが、結菜ちゃんの前に立って頭を下げている。


(あ、あれは確か、どこかの有名な企業の御曹司だったはず……)


私が見守る中、告白された当の結菜ちゃんは、困ったように、けれど迷いのない冷ややかな視線で男の人を見つめていた。


「ごめんなさい。私、好きな人が居たの。その人を超える人が現れない限り、誰ともお付き合いするつもりはありません」


(あーあ、また言ってる……)


私は物陰で小さくため息をついた。

「居たの」なんて過去形で言われても、相手からすれば何のことだかさっぱり分からないはずだ。案の定、目の前の御曹司イケメンは「え? 居た? どういうこと?」と言いたげに頭を混乱させている。


これ以上は時間の無駄だ。私は二人の間にすっと割って入った。


「あーごめんなさい。あなたでは役不足だと言ってるんだと思うよ」


「は? オレが? 一体誰と比べてるの!?」


プライドを傷つけられた御曹司が気色ばむけれど、今の私は昔の「事なかれ主義」な私じゃない。時に厳しいことを言うのも、相手のためであり、優しさなのだ。


「ごめんなさい。私たち、これからどうしても外せない、とても大切な用事があるの。では、さようなら」


私は唖然とする彼を置き去りにして、結菜ちゃんの手をしっかりと引き、駅の方へと歩き出した。

少し離れたところで、ようやく繋いでいた手を離して結菜ちゃんを振り返る。


「ちょっと結菜ちゃん、今月に入って何人目? 大学の男性全員を袖にするつもり? しかもまたあんな意味不明なこと言ってるし」


「私は間違ったことは言ってませんよ? それに、断った人数なら詩織さんの方が多いでしょ」


「う~ん……私は数えてないから、ちょっと分からないかなぁ」


「はぁぁぁ……本当に相変わらずですね。行こ!」


「うん、行こう!」


お互いにあきれ顔で笑い合いながら、私たちは電車に揺られて、湊くんの眠る場所へと向かった。


静かな墓地の敷地を進み、私たちはひとつの墓石の前に立つ。


「お兄ちゃん、今年も来たよ!」

「湊くん、私も来たよ!」


二人はぶつぶつと近況報告──大学でのこと、杏奈のこと、おばあちゃんのこと──を話しながら、てきぱきとお墓を掃除していく。お花を新しいものに入れ替え、お水を供える一連の動作は、5年間で完璧に身体に染みついていた。


「じゃぁ、お祈りしよっか」

「うん」


二人は、おばあちゃんから形見分けとしてもらった、湊くんの遺髪入りのロケットを胸の前でそっと抱きしめる。

そして、静かに目を閉じた。


どれくらい、そうして彼と心を交わしていただろう。


「よし、いい?」


私がそっと目を開けて声をかけると、結菜ちゃんも満足そうに頷いた。


「うん! じゃぁね、お兄ちゃん! また来るよ。──私を愛するお兄ちゃん!」


去り際、ドヤ顔で放たれた結菜ちゃんの言葉に、私は思わずずっこけそうになった。


「ちょっと、なんでマウント取られてるの? そこは『私を』じゃなくて『私の』お兄ちゃん、が文法的に正解でしょ!」


「間違ってないよ? 手紙に書いてあったもん。ほら、そんなに焼きもち焼かないでよ、詩織さん」


結菜ちゃんはいたずらっぽく笑って、先に歩き出してしまう。


「もぉ……本当にずるいんだから」


私は苦笑しながら、けれど愛おしさを噛み締めてその背中を追った。


「さて、帰ろう!」

「うん!」


帰り道、二人で並んで歩きながら、ふと上を仰ぎ見る。

まだ夕暮れ前だけれど、あの葬儀の日の夜と同じように、私たちの行く先には、きっと強く瞬く星空が待っているはずだ。

君の優しさを引き継ぎ、私たちは、これからも涙の向こう側へと歩き続けていく。


『完』

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君の優しさを引き継ぎ、私たちは涙の向こうへ ユキユメ @yuki-yume

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