第56話 世界中のダンジョンから、同じ古代文字が出始めた

異変は三日後に始まった。


最初は探索者協会からの照会だった。


【旧式表示と思われる文字列について、Sanctuary側で解読可能か】


添付画像には、崩れたダンジョン壁面に浮かぶ文字が映っている。


【NODE:OFFLINE】


湊は見覚えがあった。


「北部と同じだ」


アデルが資料を確認する。


「場所は西方第三ダンジョン。現在、通常探索区画として運用されています」


さらに一件。


南部海底迷宮。


【EVACUATION ZONE:SEALED】


さらに一件。


魔族領東端の古代迷宮。


【RESIDENT CAPACITY:0/1200】


ヴェルナの表情が変わった。


「これ、魔族領にもあるのか」


「あるみたい」


「記録にない」


「人間側にもないよ」


アデルが静かに資料を並べる。


「旧Sanctuary網は、人間国家成立より前、現在の魔族領形成より前に存在していた可能性が高いでしょう」


アレシアが腕を組む。


「神代末期、種族間戦争が激化する以前にも避難域は存在した。妾の社も、その一つへ後から接続されたのやもしれぬ」


レナが地図を見る。


「今見つかってるのが四地点。共通点は?」


「全部ダンジョン」


湊が答える。


「それは見れば分かる」


「じゃあ古い?」


「それも条件として弱い」


ルゥが地図へ顔を近づけ、鼻を鳴らした。


「場所、変」


「何が?」


「人間領、魔族領、海、山。境界関係ない」


ヴェルナが頷く。


「確かに。国家単位で作られた施設ではない」


シエラが古地図を見る。


「防衛拠点として見るにも配置が散りすぎている。むしろ……避難経路だ」


アデルが目を細める。


「各地域の住民を、一時的に収容するための網」


フィアがテーブルの地図へ座り込む。


「でも全部死んでるの?」


誰もすぐ答えなかった。


現在確認できる範囲では、稼働中なのは湊たちのSanctuaryと、応急復旧した北部第四だけ。


他は停止。


封鎖。


あるいは用途そのものを忘れられている。


湊はSYSTEMを開く。


【RESTORATION NETWORK:1/??】


数字は変わっていない。


「全部直せってことかな」


アデルが即座に返す。


「我が主。世界各地の未知施設を一人で修理する計画は却下いたします」


「まだ言ってないけど」


「お顔に書いてございました」


レナが地図へ印をつける。


「まず調査。危険度、現在の所有権、住民反応、旧SYSTEMの状態。全部違う可能性がある」


ミナが心配そうに尋ねる。


「また遠征が増えるんですか?」


「たぶん」


「じゃあ保存食の在庫を先に増やします」


湊が振り向く。


「そこ?」


「そこです。前回、帰りの分まで食べましたよね」


「ルゥが食べた」


「湊も食べた」


入口からルゥの声が飛んだ。


「ばれた」


アレシアが地図を眺める。


「妙じゃな」


「何が?」


「妾が目覚め、北部が再起動した直後から、他の節点が姿を現し始めた」


食堂が静かになる。


アデルも同意する。


「偶然とは考えにくいでしょう」


その瞬間。


SYSTEMが起動した。


【RESTORATION NETWORK:SIGNAL DETECTION】


【休眠節点からの応答を受信】


地図上に、光点が一つ。


二つ。


五つ。


十。


さらに増える。


湊が目を見開く。


「……多くない?」


レナが数えるのを途中でやめた。


「多いどころじゃない」


世界地図の上で、今まで誰も知らなかった避難所の痕跡が次々に灯っていく。


国境を無視して。


種族領を無視して。


海も山も越えて。


最後にSYSTEMが一行だけ表示した。


【ACTIVE SANCTUARY:2】


【DETECTED NODES:73】


誰も声を出さなかった。


フィアだけが、小さく言った。


「……世界中、壊れてるの」

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