第51話 神様に神殿を作ろうとしたら、本人から狭くしろと言われた
翌朝、アレシアのための部屋をどうするかが住民会議の議題になった。
原因は湊だった。
「神様なら神殿いる?」
食堂が静かになる。
アレシアだけが目を輝かせた。
「おお。ようやく神を敬う心が芽生えたか」
「北部の社、壊れてたし。こっちにも仮のやつ作っといた方が便利かなって」
「便利で神殿を建てる者を初めて見たぞ」
フィアが机を叩く。
「森の木は切っちゃ駄目なの!」
「石で作るよ」
「ならいいの!」
レナが端末へ条件を書き込む。
「目的を先に決めて。信仰施設なのか、アレシアの居室なのかで必要設備が全部変わる」
「寝る場所」
「じゃあ神殿じゃなくて部屋でいいじゃない」
アレシアが身を乗り出した。
「待て。神には格式というものがある」
アデルが微笑む。
「では、神域儀礼に必要な最低条件を列挙いたしましょうか」
「うむ!」
「祭壇、供物台、礼拝区画、神性安定陣、参拝動線、聖域境界、神具保管庫――」
アレシアの顔から徐々に勢いが消えた。
「……待て」
「さらに神官控室、祭礼用倉庫、参拝者待機区画を――」
「待て待て」
ミナが心配そうに尋ねる。
「掃除も大変そうですね」
アレシアが固まった。
「掃除?」
「神殿なら毎日ですよね。埃、供物の片づけ、床、祭壇……」
アレシアは遠い目になった。
二百年、誰も来なかった崩れた社。
E-07だけが年に一度、供物台を整えていた場所。
「……小さくてよい」
「いいの?」
「小さくてよい!」
最終的に作ったのは六畳ほどの部屋だった。
奥に小さな棚。
そこへ北部の社から持ってきた折れた槍の一部と、木皿を置く。
ベッド。
机。
収納棚。
そして窓代わりの光石。
湊が壁を整えていると、アレシアが戸口から覗き込んだ。
「……祭壇は?」
「棚じゃ駄目?」
「いや、駄目ではないが……」
「供物置けるよ」
「リンゴは何個置ける?」
「三つくらい」
「十分じゃ」
レナが端末を閉じる。
「神殿設計としては史上最速で要件定義が終わったわね」
部屋が完成すると、アレシアはしばらく入口から動かなかった。
湊が聞く。
「気に入らない?」
「そうではない」
「狭い?」
「むしろ……近いのじゃ」
「何が?」
アレシアは少し言いにくそうに目を逸らした。
「食堂が」
廊下を挟んですぐ向こうから、ミナが鍋を動かす音がする。
フィアの声。
ルゥの短い返事。
シエラの鎧が鳴る音。
誰かが笑っている。
北部の社では、二百年、E-07の足音以外ほとんど何もなかった。
「うるさい?」
「……逆じゃ」
アレシアは部屋へ入る。
ベッドを押す。
少し沈む。
「柔らかい」
「固い方がいい?」
「いや」
もう一度押す。
「これでよい」
その夜。
湊が廊下を通ると、アレシアの部屋の扉が少しだけ開いていた。
中では女神がベッドへ横になっている。
だが眠ってはいない。
食堂から聞こえてくる小さな話し声を、目を閉じたまま聞いていた。
湊は声を掛けず、そのまま通り過ぎた。
SYSTEMは何も表示しなかった。
翌朝。
アレシアは誰より早く食堂に座っていた。
「朝餉はまだか?」
ミナが時計を見る。
「あと二十分です」
「神を待たせるのか?」
「昨日、朝食は七時って住民規則を説明しましたよね」
アレシアは黙った。
少しして、小さく言う。
「……七時まで待つ」
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