第47話 最後の住民は、十五年間ずっと避難所を閉じていた

機械の少女は、自らを《管理補助個体E-07》と名乗った。


名前ではない。


型式番号だった。


「ここに十五年いるの?」


「正確には、二百八十三年と四か月です」


「長いな」


「十五年前に最後の外部利用者を退避させました」


E-07は壊れた脚を引きずりながら、施設内部を案内した。


給水系統停止。


空調停止。


魔力炉出力二・一パーセント。


防壁機能停止。


それでも最低限の封鎖だけを維持している。


「誰もいないのに?」


「次の避難者が来訪した場合、危険区画へ侵入させないためです」


レナが小さく息を吐いた。


「ずっと、一人で?」


「私は管理個体です。一人という概念は適用されません」


そう言いながら、E-07の右手は何度も胸部の亀裂を押さえていた。


アデルが施設中央の端末を調べる。


「我が主。再起動は可能です。ただし、この個体を中枢制御へ再接続する必要がございます」


「それやったらどうなる?」


「現在の損耗状態では、恐らく人格領域を維持できません」


E-07が即答した。


「問題ありません」


湊は振り返る。


「問題あるだろ」


「Sanctuary再起動が最優先です」


「E-07は?」


「管理資源です」


「そうじゃなくて」


湊は少し考える。


「お前は、どうしたい?」


E-07の目が止まった。


「質問の意味を解析できません」


「再起動したいかじゃなくて。そのあとも自分で動いていたいとか、外を見たいとか」


「管理個体に希望は不要です」


「不要かどうかじゃなくて、ある?」


長い沈黙。


ピィがE-07の肩へ飛び移った。


「ピィ」


金属の少女は壊れた目で小鳥を見る。


「……記録上、外部環境を直接観測したことはありません」


「じゃあ見たい?」


また沈黙。


やがて、小さく答えた。


「観測してみたい、という回答は……管理規則に違反しますか」


「知らない。でも俺はいいと思う」


レナが笑った。


アデルも、ほんの少し目を細める。


湊は中央炉を見る。


「じゃあ別の方法探そう」


「効率が著しく低下します」


「それでも」


「なぜですか」


湊は首を傾げた。


「住民一人消して避難所直したら、本末転倒じゃない?」


その瞬間。


停止していた壁面表示が、一度だけ点灯した。


【SANCTUARY PRINCIPLE:一致】


アデルの表情が変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る