第46話 停止したダンジョンには、誰もいないはずだった

北部第四ダンジョンは、湊たちのSanctuaryとはまるで違っていた。


入口からして、人の気配がない。


探索者向けの照明は落ち、案内板は半分崩れ、内部へ続く階段には古い封鎖テープが何重にも巻かれている。


「公式には十五年前から閉鎖区画です」


レナが端末を確認する。


「魔力枯渇。内部環境悪化。探索価値なし」


「価値なし、か」


アデルが静かに呟いた。


「旧時代なら、最も危険な評価でございます」


「逆じゃない?」


「避難領域が生命を維持できなくなった、という意味ですので」


封鎖を越え、内部へ入る。


空気は乾いていた。


湊の迷宮改変は自分の領域外ではほとんど使えない。壁を動かそうとしても、SYSTEMから返ってくるのは【権限なし】だけだった。


「便利だったんだな、あれ」


「今さら?」


レナに言われる。


ルゥが先頭で立ち止まった。


「匂いが変」


「何の?」


「生き物の匂いが、ほとんどない。でも……誰かいる」


【RESIDENT SIGNAL:1】


表示は消えていない。


地下へ進むほど、人工物が増えた。


ベッドの並ぶ部屋。


食堂跡。


壊れた給水設備。


小さな診療区画。


「ダンジョンというより」


湊が周囲を見る。


「昔の避難所みたいだな」


アデルは答えなかった。


その沈黙が、答えだった。


最深部近くで、ピィが突然羽を逆立てた。


「ピィ!」


正面の扉がわずかに開いている。


その隙間から、金属を引きずる音がした。


ルゥが短剣へ手をかける。


レナも構える。


扉の奥から現れたのは、人間ではなかった。


細い少女のような輪郭。


しかし肌は白い金属で、片目は砕け、左腕は肘から先がない。


胸部には淡い青色の光が明滅している。


【生命反応:なし】


【魂魄反応:判定不能】


【旧SYSTEM管理個体】


少女は湊たちを見ると、壊れかけた声で告げた。


「……避難者、ですか」


誰もすぐには答えられなかった。


「違うけど」


湊が言う。


「様子を見に来た」


少女は数秒停止した。


そして、ぎこちなく頭を下げた。


「では……お帰りください」


「なんで?」


「当Sanctuaryは、すでに安全ではありません」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る