第44話 別のダンジョンでも、同じ名前が表示された
翌朝、問題の情報は正式な報告として届いた。
北部第四ダンジョン。
地上から約二千キロ離れた山岳地帯にある中規模迷宮。
攻略済み区画の一部で、これまで存在しなかった旧式文字列がSYSTEM表示へ混入したという。
【SANCTUARY NODE:OFFLINE】
レナが報告書を机へ置く。
「これ、偶然じゃないと思う」
「名前同じだな」
湊が言う。
「そこじゃなくて」
「いや大事だろ」
アデルは資料を読んだまま動かなかった。
いつもの余裕が少しだけ消えている。
「アデル?」
「……記憶がございます」
全員が彼を見る。
「旧時代、各地の迷宮は独立した処刑場や資源採掘地ではありませんでした」
「じゃあ何だったの?」
フィアが机の端へ座る。
アデルはゆっくり答えた。
「避難領域。生命維持区画。種族間衝突から逃れた者を収容するための分散型保護拠点」
ヴェルナが眉を寄せる。
「それがSanctuary?」
「当時の正式名称の一つです」
部屋が静かになった。
レナが湊を見る。
「……私たち、先に名前つけたよね」
「ミナが言った」
「適当に」
ミナが遠慮がちに手を上げる。
「すみません。意味が近いかなと思って……」
アデルが首を振る。
「謝る必要はございません。むしろ不可解です。現代語として偶然選んだ名称が、旧SYSTEMの正式概念と一致している」
湊はSYSTEM画面を開く。
以前一瞬だけ出た文字列。
《SANCTUARY RESTORATION》
「直してる途中ってこと?」
「可能性は高いかと」
レナが腕を組む。
「でも、北部第四ダンジョンは私たちと関係ない」
「本当に?」
ヴェルナが言った。
全員が彼女を見る。
「最近、こちらの交易品が北部まで流れている。配信も見られている。人間側でも魔族側でも、Sanctuaryという言葉そのものが広がっている」
フィアが目を丸くする。
「名前を知っただけで起きるの?」
「それなら簡単すぎる」
レナが否定する。
その時、SYSTEMが小さく震えた。
【遠隔旧領域信号を検知】
【接続要求:失敗】
湊が表示を見る。
「向こうから繋ごうとしてる?」
アデルの表情が変わった。
「我が主。これは放置しない方がよろしいかと」
「危ない?」
「危険かどうかも判断できません。ですが旧SYSTEMが、別の領域からこちらへ接続を試みている」
レナがすぐに言う。
「遠征するなら準備が必要。全員で行くのは駄目」
「まだ行くって言ってないけど」
「顔が行く気だった」
「そう?」
「そう」
湊はもう一度表示を見る。
【SANCTUARY NODE:OFFLINE】
その下に、初めて別の一文が追加された。
【RESIDENT SIGNAL:1】
「住民……一人?」
誰もすぐには答えなかった。
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