第43話 地上では「魔王城に移住したい」が増えているらしい

交易所が動き始めてから、配信の内容も少し変わった。


以前は「深層で生き残っている荷物持ち」や「魔王認定された男」という見出しばかりだった。


今は違う。


『Sanctuaryの交易所、本当に一般人も入れるの?』


『あそこ薬草安いらしい』


『住民募集してない?』


湊はコメント欄を見て首を傾げた。


「住民募集?」


レナが隣から画面を覗く。


「最近増えてる」


「何が?」


「ここに住みたいって人」


湊はもう一度コメントを見る。


『会社辞めて移住したい』


『獣人でも受け入れてくれる?』


『アンデッドの家族がいるんだけど相談できるかな』


『子ども連れでも大丈夫?』


『魔族と結婚したいんだけど両方の国から反対されてる』


「……相談所になってない?」


「半分くらいはそうなってる」


アデルが資料を一枚差し出した。


「我が主。正確には、過去四十八時間で居住問い合わせが二百十三件ございます」


「多いな」


「そのうち、現実的に受け入れ検討が必要と思われるものが三十七件」


「なんで分類終わってるの?」


「業務ですので」


レナがため息をつく。


「だから勝手に受け入れたら駄目だからね」


「分かってる」


「昨日、入口に来た老夫婦を客室に泊めたでしょ」


「雨降ってたから」


「そういうところ」


老夫婦は人間だった。


息子が魔族領にいるらしい。長年会えていなかったが、暫定協定の話を聞き、ここなら連絡を取れるかもしれないと来た。


湊は事情を全部理解していたわけではない。


ただ、夜になっても帰れず入口で困っていたので、空いている客室を使わせただけだった。


翌朝、ヴェルナが魔族側の連絡網を使って息子を探した。


三時間後、通信が繋がった。


老婦人は画面を見た瞬間、何も言えなくなった。


老人も黙ったままだった。


向こうの魔族の男も、しばらく声を出さなかった。


湊はその場にいなかった。


交易所の屋根を直していた。


それでもSYSTEMには通知が出た。


【領域内における断絶関係の再接続を確認】


【SP+18】


湊が後でその表示を見つけた時、最初に言ったのは、


「俺、何もしてないけど」


だった。


アデルは静かに答えた。


「それが重要なのかもしれません」


「どういうこと?」


「この領域は、もはや我が主一人の善意だけで維持されているのではない、ということです」


湊は少し考えた。


食堂ではミナが人間と魔族の客へ同じ鍋からスープを出している。


ルゥは交易所の入口で荷物を確認している。


シエラは夜間の案内路を見直していた。


フィアは薬草区画の採取量について商人へ怒っている。


ヴェルナは老夫婦の息子と次の連絡日を調整している。


レナは新しい安全規則を書いている。


「……俺、いなくても回ってるな」


「寂しい?」


レナが聞いた。


「いや」


湊は素直に答えた。


「楽」


「そこは少し寂しがってもいいと思う」


その配信の最後。


コメント欄に一件だけ、他とは違う書き込みが流れた。


『北部第四ダンジョンでも、“Sanctuary”って文字が出たって本当?』


レナの指が止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る