第42話 交易所を作ったら、魔王城より市場っぽくなった
暫定協定が結ばれてから三日。
Sanctuaryの入口は、以前よりずっと騒がしくなっていた。
「そこ、止めないで。荷車が通れない」
ルゥが耳を伏せながら、入口付近で人間側の商人を誘導する。
「右の箱は食料庫。左は薬草区画。そっちの布はミナに確認して」
「はい、はい!」
商人の男が慌てて荷札を確認した。
湊は少し離れたところで、その様子を眺めていた。
「……増えたな」
「何がです?」
隣に立つアデルが聞く。
「箱」
「そこですか」
「人も増えたけど」
「順番が逆かと存じます」
入口には、人間側から持ち込まれた塩、乾燥肉、紙、布、工具。魔族側からは魔鉱石、保存香辛料、黒麦、薬用樹脂。
そしてSanctuary側から外へ出すのは、フィアの自然区画で育った薬草、地下水脈の清浄水、ミナが加工した保存食だった。
誰かが最初から交易所を作ろうと言ったわけではない。
荷物が増え、受け渡しのたびに食堂前が塞がり、フィアが「森の前に箱置くななの!」と怒り、ミノタウロスが毎回巨大な荷物を端へ寄せていた結果――必要になっただけだ。
「受け渡し専用の場所、作るか」
湊が言う。
レナが端末から顔を上げた。
「今さら?」
「昨日までは何とかなってたし」
「昨日、私の部屋の前に塩三箱置いてあったけど」
「それは知らなかった」
「知って」
結局、入口脇の空き区画を広げることになった。
湊が床を平らにし、荷車が回れる幅を確保する。ミノタウロスが重い石材を運び、ルゥが人の流れを見ながら動線を指示する。
フィアは上から飛び回りながら叫ぶ。
「そっち狭いの! 荷物持った人間同士ぶつかるなの!」
「フィア、詳しいな」
「三日見てれば分かるの!」
「じゃあ任せる」
「任せるななの! ……でもそこはもう一歩広げるの!」
結果として、受付台、荷物置き場、検品場所、休憩用の長椅子までできた。
ミナが完成した区画を見回す。
「なんだか市場みたいですね」
「市場?」
「人が来て、物を持ってきて、交換して、ちょっと休んで帰るところです」
湊はしばらく眺めた。
人間の商人と魔族の運び手が、同じ受付台の前で順番を待っている。
最初の頃なら、互いに距離を取っていたはずだ。
今はどちらも、荷札の順番で揉めているだけだった。
「そっちが先だっただろ」
「いや、我々の荷車が先に着いていた」
「札番号はこっちが若い」
「……それならお前が先だ」
「素直だな」
その会話を聞いて、ヴェルナが小さく笑った。
「平和な争いだ」
アデルが帳簿を閉じる。
「争点が順番で済むなら、実に健全でございます」
その日の夕方。
交易所には名前が付いた。
誰が言い出したのか分からない。
木板にはただ、こう書かれていた。
【共同交易所】
湊がそれを見る。
「共同って、誰と誰?」
レナが答えた。
「全員じゃない?」
「便利だな、その言葉」
SYSTEMは何も表示しなかった。
SPも増えなかった。
それでも翌朝には、交易所の長椅子で、人間の商人と魔族の運び手が並んで朝食を食べていた。
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