第41話 魔王城に住民会議を作ったら、魔王だけ発言権が弱かった

交易が始まると、問題も増えた。


食堂が混む。


受付に荷物が溜まる。


地下森林へ勝手に入ろうとする来訪者が出る。


フィアが怒る。


「森は観光地じゃないの!」


そして何より。


「湊さん、決めてください」


ミナに言われることが増えた。


食堂の営業時間。


来訪者用客室の数。


交易区画と居住区の境界。


「みんなで決めたら?」


湊が言うと、レナが腕を組んだ。


「じゃあ住民会議ね」


「大げさじゃない?」


「国二つと協定結んだ場所の主がそれ言う?」


その日の夕食後。


食堂で第一回Sanctuary住民会議が開かれた。


参加者。


湊。


レナ。


ミナ。


ルゥ。


フィア。


シエラ。


ヴェルナ。


アデル。


ミノタウロスは言葉を話さないため、意思表示札を三枚用意した。


○。


×。


?。


ピィには用意していない。


「ピィ!」


不満そうだったので、急遽小さい○札を渡した。


「最初の議題。地下森林への来訪者立入」


レナが進行する。


フィアが机へ両手をつく。


「禁止なの!」


「全部?」


「全部!」


ミナが手を挙げる。


「薬草を買いに来る人はどうします?」


「フィアが取ってくるの!」


「大変じゃない?」


「……ちょっと大変なの」


ルゥが短く言う。


「案内付き」


全員が見る。


「勝手に入るの禁止。住民が一緒なら可」


フィアが考える。


「木に触らない?」


「触らせない」


「泉に物投げない?」


「投げさせない」


「なら……いいの」


可決。


次。


来訪者用食堂の営業時間。


ミナが「今のままだと一日中料理することになる」と訴える。


湊が言った。


「閉めればいいじゃん」


「何時に?」


「疲れたら」


全員が黙る。


アデルが丁寧に言う。


「我が主。その規則では来訪者が最も困ります」


「じゃあ昼と夜」


レナが採決を取る。


湊案、反対多数。


「なんで?」


ミナ「準備時間がありません」


アデル「具体性がございません」


ヴェルナ「魔族領の露店でも、もう少し営業時間は決めるぞ」


ルゥ「匂いで客は帰らない」


フィア「妖精の祭りでも始まりと終わりくらいあるの!」


ピィまで×札を嘴で叩いた。


「ピィ、お前まで?」


最終的にミナ本人が営業時間を決めた。


次は外門。


ミノタウロスの勤務時間。


湊が首を傾げる。


「こいつ勝手に立ってるだけだけど」


ミノタウロスが○札を上げた。


「本人もそう言ってる」


シエラが静かに言う。


「しかし休息は必要であろう」


ミノタウロスが×。


「必要ないって」


シエラ「本人が不要と申しても、疲弊した門番を立たせ続けるのは指揮官の怠慢であろう」


湊は少し止まった。


昔、自分も似たことを言っていた気がする。


荷物持ちだから。


自分しかできないから。


休むと迷惑だから。


「……交代作るか」


ミノタウロスが?を出した。


ルゥが言う。


「昼、私見る」


シエラ「夜は私が」


ミノタウロスはしばらく三人を見る。


最後に○札を置いた。


SYSTEMが小さく光った。


【SP+2】


湊が表示を見る。


「二だ」


レナが笑う。


「数字実況しなくていいから」


最後の議題。


「領域主の権限について」


アデルが資料を配る。


湊が嫌な予感を覚えた。


「俺?」


「現在、我が主は理論上すべての施設を単独で改変可能です」


「うん」


「しかし居住者の私室まで勝手に変えられる状態は、共同体として不適切かと」


湊は即答した。


「じゃあ変えられないようにしよう」


全員が少し黙った。


「いいの?」


レナが聞く。


「人の部屋勝手に変える用事ないし」


アデルが確認する。


「住民私室・個人管理区画について、緊急時を除き領域主単独での改変を禁止する。その権限制限を、我が主ご自身にも適用してよろしいのですね?」


「うん」


「魔王なのに?」


ヴェルナが半分冗談で言う。


「魔王ならなおさら、勝手に人の部屋いじったら駄目じゃない?」


また静かになる。


フィアが小さな手を上げた。


「賛成なの」


ルゥも。


「賛成」


次々に手が上がる。


ミノタウロスは○。


ピィも○。


全会一致。


アデルが規則を書き込む。


【Sanctuary住民自治規則・第一版】


その瞬間。


SYSTEMが今までとは違う音を鳴らした。


【領域所有概念の変化を検出】


【単独所有領域 → 共同帰属領域】


湊が固まる。


SPの数字は増えない。


代わりに、領域図の色が少し変わった。


これまで湊を中心に広がっていた光が、食堂、森、各私室、外門へと複数の中心を持ち始める。


「……俺のダンジョンじゃなくなった?」


アデルが首を振る。


「いいえ」


レナが続ける。


「“湊だけの”じゃなくなったんじゃない?」


食堂には、誰かの笑い声が残っている。


湊は領域図をしばらく見ていた。


そして、少しだけ笑った。


「そっちの方がいいな」


SYSTEMの奥で、読めない古い文字列が一瞬だけ走った。


《SANCTUARY RESTORATION……》


そこまで表示され、消えた。

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