第40話 俺が寝ている間にSPが増えたので、少し怖い

協定成立から三日後。


湊は珍しく寝坊した。


理由は簡単だ。


アデルが仕事を全部整理してしまったせいで、夜にやることがなくなったからだ。


「健康的になってるのに納得いかない」


「我が主。健康とは概ねそういうものでございます」


食堂へ行くと、妙に静かだった。


ミナがいない。


ルゥもいない。


シエラもいない。


「みんなは?」


レナがパンを齧りながら答える。


「外」


「何かあった?」


「交易第一便」


湊は止まった。


「今日だっけ」


「今日よ」


「聞いてない」


「昨日三回言った」


「聞いてた?」


「返事もした」


覚えていない。


アデルが横から手帳を開く。


「我が主は『朝早いな』と仰いました」


「言った気がする」


「その後二度寝なさいました」


外周へ向かう。


新設された中立受付には、すでに人間商人と魔族商人がいた。


人間側からは塩、布、医薬品。


魔族側からは地下茸、魔力鉱、保存香辛料。


ルゥが荷物の臭いを確認し、シエラが危険物を目視。ヴェルナが魔族側の品名を翻訳し、ミナが食材を見て目を輝かせている。


ミノタウロスは荷箱を持っていた。


一人で四箱。


「もう始まってる」


「始めた」


ルゥが短く答える。


「俺いなくて大丈夫だった?」


耳がぴくりと動く。


「なんで必要?」


「……確かに」


少し寂しい。


受付で小さな問題が起きた。


魔族側の香辛料袋を、人間側の若い商人が警戒している。


「本当に食えるのか、それ」


魔族商人がむっとする。


「人間の舌が弱いだけだ」


空気が刺さる。


湊が口を出そうとする前に、ミナが袋を開けた。


「少し使っていいですか?」


両方が見る。


「……いいが」


その場でスープへほんの少し加える。


湯気の匂いが変わった。


人間商人が一口飲む。


「……うまい」


魔族商人が鼻を鳴らす。


「当然だ」


「でも入れすぎたら死ぬほど辛いな」


「それも当然だ」


二人が少しだけ笑った。


湊は何もしていない。


その後も、布の寸法が違えばレナが規格表を作り、通貨換算で揉めればヴェルナとアデルが計算する。


フィアは勝手に地下茸を持っていこうとしてミナに捕まった。


「これは交易品です!」


「一本くらいいいの!」


「駄目です!」


「けち!」


いつもの騒ぎだ。


交易第一便は、昼前に終わった。


戦闘なし。


怪我なし。


契約違反なし。


湊がしたことは、最後に全員へ言った一言だけだった。


「お疲れ」


部屋へ戻り、SYSTEMを開く。


数字を見て固まった。


【SP+41】


「……え?」


朝起きた時点より増えている。


「俺、何もしてないけど」


SYSTEM履歴を開く。


【異種族間相互信頼:微増】


【住民間自主協力:成立】


【領域主非介在状態での相互扶助を確認】


最後の一文を何度も読む。


「非介在って……俺がいない方が評価高いみたいじゃん」


「違うわよ」


いつの間にかレナが後ろにいた。


「湊がいなくても、この場所が回るようになったってことでしょ」


「それいいこと?」


「普通はね」


湊は領域図を見る。


食堂。


自然区画。


夜警路。


受付。


客室。


最初は全部、自分とピィのために直した小さな部屋から始まった。


今は、自分が知らないところで誰かが誰かを助けている。


「変な感じだな」


「嫌?」


「いや」


少し考える。


「楽だな」


「そっち?」


「寝坊できるし」


レナは呆れたあと、小さく笑った。


その日の夜。


SYSTEMに、新しい項目が一瞬だけ表示された。


【Sanctuary自律度:1】


すぐに消えた。


湊は目を擦った。


「今なんか出た?」


肩のピィが眠そうに鳴く。


「ピィ……」


記録には残っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る