第35話 人間と魔族から同時に呼び出されたので、真ん中で会うことにした

《契約殿》の調査を始める前に、もう一つ問題が来た。


人間側と魔族側の両方から、正式な会談要請が届いたのだ。


しかも同じ日に。


「断る?」


湊が聞くと、ヴェルナは少し考えた。


「断れば、向こうは勝手に理由を作る」


「じゃあ会うか」


「人間側は地上の政府施設を指定している。魔族側は境界都市だ」


「二ヶ所行くの面倒だな」


「そこなの?」


レナの声が呆れていた。


湊は地図を見た。


Sanctuaryはちょうど人間圏と魔族領の境界から離れた深層にある。


「じゃあ、ここに来てもらえば?」


ヴェルナが目を細めた。


「双方を同じ場所へ呼ぶのか」


「だって同じ話でしょ」


結果として、世界でもほとんど前例のない会談が決まった。


人間政府の代表団と魔族領西辺の使節団が、同時にSanctuaryへ入る。


問題は会談室だった。


「食堂でいい?」


「駄目」


レナとヴェルナが同時に答えた。


仕方なく湊は【迷宮改変】で新しい部屋を作った。


中央に長机。両側に同数の椅子。出入口も二つ。


人間側と魔族側のどちらも、相手より奥へ座らされたと感じない配置。


シエラはそれを見て感心した。


「主、こうした儀礼に通じていたのか」


「いや。喧嘩になったら逃げやすい方がいいかなって」


「……結果として非常に公平である」


当日。


人間側代表は三名。魔族側も三名。


両者は部屋へ入った瞬間から互いを警戒していた。


そして、それ以上にSanctuaryの住人を見て固まった。


入口にミノタウロス。


天井近くにフィア。


通路の奥にはシエラ。


ルゥが壁際に立ち、ピィは湊の肩。


『これは……護衛戦力ですか?』


人間側の代表が聞いた。


「住人です」


『死霊騎士も?』


「夜警です」


魔族側の使者がヴェルナを見る。


『貴殿は、この状況を正常と判断しているのか』


ヴェルナはしばらく考えた。


「慣れる」


「ピィ」


会談は最初から難航した。


人間側は魔族住民の登録と監視を求める。


魔族側はヴェルナを含む魔族への人間法適用を拒否する。


双方ともSanctuaryの主権を認めていないのに、Sanctuaryへ義務だけ課そうとする。


レナが何度も話を整理したが、法制度が違いすぎる。


やがて人間側代表が言った。


『少なくとも、危険存在の管理責任は明確にしていただきたい』


魔族側も続く。


『同意する。魔族の身柄を人間側が勝手に処分できぬ保証も必要だ』


湊は二人を見た。


「じゃあ、勝手に誰かを連れていかないって約束すればいいんじゃない?」


両陣営が黙った。


『……口約束では国家間保証になりません』


「紙に書けば?」


『履行を誰が保証するのです』


そこで全員が止まった。


それが本当の問題だった。


人間側は魔族を信用しない。


魔族側も人間を信用しない。


そして両者とも、突然現れたSanctuaryを信用しきれない。


必要なのは、三者の誰にも属さず、約束そのものを保証する仕組みだった。


会談は結論を出せずに終わった。


だが帰り際、人間側代表の一人が小さく言った。


『……少なくとも、想像していた魔王城とは違いました』


「どんなの想像してたんです?」


『もっとこう、拷問器具とか』


「食堂ならあります」


『なぜ比較対象が食堂なんですか』


魔族側の若い使者が吹き出した。


その瞬間だけ、人間と魔族の間の緊張が少し緩んだ。


夜。


シエラが古代記録庫から一枚の石板を持ってきた。


そこには、現代SYSTEMとは違う文字で刻まれていた。


《契約を破る者、門を潜るべからず》


《契約を強いる者、主たる資格なし》


湊は二行目を二度読んだ。


「強制するのも駄目なんだ」


「そう読める」


ヴェルナが言った。


その下には、封鎖区画への古い経路が記されていた。

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