第31話 魔族だから追い出せと言われたので、本人に聞くことにした

ヴェルナが魔王城へ来て二日目の昼、地上から通信が入った。


配信を見た探索者協会が、正式な照会を送ってきたのだ。


内容は簡潔だった。


【魔族個体の存在を確認した】


【人類圏への危険性を考慮し、即時退去または身柄引き渡しを求める】


湊は端末を読み終えると、隣にいたレナへ見せた。


「これ、どういう意味?」


「そのまま。ヴェルナを追い出すか、協会に渡せってこと」


「なんで?」


「魔族だから」


「それだけ?」


「それだけで十分だと思ってる人たちは多いわ」


食堂の奥で、ヴェルナの耳がわずかに動いた。


彼女は治療用の布を巻いたまま立ち上がる。


「構わん。出ていく」


ミナが驚いて振り返った。


「でも、まだ傷が」


「人間側の問題に、この場所を巻き込むつもりはない」


フィアが机の上で腕を組む。


「勝手なの。まだフィア、あんたのこと嫌いって決めてないの」


「嫌う前提なのか」


「魔族だもの」


「お前も人間ではないだろう」


「フィアは妖精なの!」


「知っている」


少しだけ空気が緩む。


湊は端末を閉じた。


「じゃあ、ヴェルナは出たいの?」


「……何?」


「協会がどうとかじゃなくて。自分は出たい?」


ヴェルナは答えなかった。


「出たいなら止めない。でも、出たくないなら追い出す理由もないよ」


「私は魔族だぞ」


「昨日も聞いた」


「人間と魔族は敵だ」


「俺、魔族と戦ったことないけど」


「そういう個人の話ではない!」


初めてヴェルナが声を荒げた。


「我々は何十年も殺し合ってきた。人間は魔族を敵と教え、魔族は人間を敵と教える。私がここにいるだけで、お前たちは裏切り者と呼ばれる」


シエラが静かに口を開く。


「我も、生者の法に従えば討伐対象であろう。だが、剣を抜いていない者を斬ることを騎士道とは呼ばぬ」


ヴェルナが振り返る。


「だからといって、ここで我を斬る者はいなかった」


ルゥも壁にもたれたまま言う。


「私も、人間の企業に使い潰された。でも、人間全部が同じだとは思わない」


レナが肩をすくめる。


「私なんて人間社会から危険物扱いされたわよ」


ミナは困ったように笑った。


「私は普通の人間ですけど、ここに来るまで普通に扱われたこと、あまりなかったです」


ヴェルナは一人ずつ見た。


最後に湊を見る。


「……お前は、何なのだ」


「荷物持ち」


「そういう意味ではない!」


ピィが楽しそうに鳴いた。


協会へ返した回答は短かった。


【本人に退去意思なし】


【現時点で敵対行動なし】


【よって退去措置を取らない】


送信後、レナが画面を見て呆れた。


「主語と条件と期限が足りない。これ、外交文書じゃなくて湊のメモよ」


「じゃあ書き直す?」


「もう送ったでしょ」


ヴェルナはそのやり取りを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。


その夜。


SYSTEMに通知が出る。


【対象個体ヴェルナ:敵対認識低下】


【SP+9】


湊は数字を見て頷いた。


「九か」


「九。前回の変化量と比べると、まだ警戒が大きいってことかしら」


レナが横から覗く。


「うん。でもゼロじゃなくなった」


ヴェルナの部屋では、外套を脱いだ彼女が一人でベッドへ座っていた。


枕元には荷物がまとめられている。


まだ、いつでも出ていけるように。

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