第29話 配信で魔王城を案内したら、視聴者が一番混乱した

「今日は、ここを少し案内します」


配信開始直後、コメント欄が一気に流れた。


『魔王城ツアーきた!』


『待ってた』


『住民増えたってマジ?』


『前回ミノタウロスいたよな』


湊はカメラを持ったまま首を傾げる。


「だから城じゃないんだけど」


『まだ言ってる』


『世界警告で魔王認定されてる男が何を』


最初に食堂を映す。


ミナが鍋をかき混ぜていた。


『人いる!?』


『誰!?』


「ミナ。料理してくれてる」


ミナが慌てて頭を下げる。


「え、これ映ってます?」


『かわいい』


『魔王城の料理長?』


「料理長ではないです!」


「でも料理はほぼ任せてる」


「湊さん!」


コメントが笑いで埋まる。


次にレナの安全区画へ行く。


ちょうど小規模な衝撃試験をしていたレナが振り返る。


「配信するなら先に言って」


『美人きた』


『何の施設?』


「事故が起きても人が怪我しないようにする場所」


『説明ざっくり』


『後ろで棚倒れてるぞ』


「倒れる前提だから大丈夫」


『怖いわ』


レナがため息をつく。


「この人、全部こういう説明だから」


『苦労人枠だ』


外周へ向かうと、ルゥが戻ってきた。


獣耳が画面に入った瞬間、コメント欄の速度が倍になった。


『獣人!?』


『本物!?』


『耳動いた!』


ルゥの耳がぴくりと伏せる。


「……うるさい」


『声までかわいい』


「読むな」


「分かった」


『魔王が素直』


ルゥはカメラから少し距離を取ったが、逃げはしなかった。


湊が外周の警戒網を映す。


「ここ、ルゥが作った」


『すげえ原始的なの混ざってる』


『魔法式だけじゃないの賢い』


ルゥが小さく言う。


「魔法だけ信用すると死ぬ」


コメント欄が一瞬だけ静かになった。


湊は深掘りしない。


「だから助かってる」


その一言でルゥの耳がわずかに上がった。


地下森林へ入った途端、視聴者の反応が変わる。


『は?』


『森?』


『地下98階層だよな?』


『どうなってんのこれ』


フィアが精霊樹の枝から飛び降りてきた。


「勝手に撮るななの!」


『妖精!?!?』


『情報量』


『魔王城どうなってんだよ』


「フィア。ここに住んでる」


「住んでないの!」


「毎晩寝てるけど」


「休憩してるだけなの!」


『住んでるだろw』


『公式見解割れてる』


ピィがフィアを追い始める。


「ピィ!」


「来るななの!」


『フェニックスと妖精が追いかけっこしてる』


『もう何の配信だよ』


最後に、夜警区画へ向かう。


そこにシエラがいた。


黒銀の鎧をまとい、古い剣を腰に下げている。


カメラが彼女を捉えた瞬間、探索者向け識別表示が自動で重なる。


【高位アンデッド】


【危険度:測定不能】


コメント欄が止まった。


数秒後。


『は???』


『アンデッド!?』


『測定不能って出てるぞ』


『逃げろ魔王』


湊は普通に言った。


「シエラ。夜見回ってくれてる」


『説明軽すぎ』


シエラがカメラへ一礼する。


「我はシエラ。今はこの地の夜を預かる者だ」


『しゃべった』


『理性ある高位アンデッド!?』


『今はって何』


『魔王軍じゃん』


湊が否定する。


「軍じゃない。住んでるだけ」


その背後をミノタウロスが石材を担いで通過する。


さらに頭上をピィが飛び、フィアが怒鳴りながら追いかける。


遠くからミナが「ご飯できますよー!」と呼び、レナが「今日は棚倒れないから!」と返し、ルゥが外門を閉める音が響いた。


コメント欄が爆発した。


『住んでるだけの戦力じゃねえ』


『国家だろこれ』


『魔王軍より生活感あるのなんなん』


『多種族国家の初期画面見てる?』


『誰か国連呼べ』


『もう呼ばれてるだろ』


湊はコメントを読みながら困った顔をした。


「大げさだな」


『お前だけだよそう思ってるの』


配信終了後。


地上では、探索者協会と政府関係者が無言で映像を見返していた。


人間。


獣人。


妖精。


アンデッド。


高位魔物。


そして《魔王》認定された人間。


これまでなら同じ施設内に共存するはずのない存在が、同じ食卓へ帰っていく。


ある担当者が呟いた。


「……これは、ダンジョン攻略拠点ではない」


別の男が低く答える。


「分かっている」


「では何だ」


誰もすぐには答えなかった。


その頃、湊は食堂で椅子を数えていた。


「配信で疲れた。飯にしよう」


「ピィ!」


フィアが飛んでくる。


「フィアの席あるの?」


「あるよ」


ルゥが入口から戻る。


湊は何気なく言った。


「おかえり」


「……ただいま」


SYSTEMが静かに光った。


【領域内相互帰属意識:上昇】


【SP+42】


湊は表示を見て、少しだけ考える。


人数でもない。


自分への感謝だけでもない。


この場所そのものに、何かが積み重なっている。


その意味を、湊はまだ知らなかった。

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