第28話 魔王城の役職を決めた覚えはないのに、全部決まっていた

翌朝。


湊は食堂の壁に貼られた一枚の紙を見ていた。


【Sanctuary当番表】


「……これ何?」


ミナが朝食を運びながら答える。


「昨日みんなで話して決めました」


「俺、聞いてないけど」


「寝てましたから」


そこには、いつの間にか役割が並んでいた。


ミナ――食堂・保存食・物資管理。


ルゥ――外周偵察・警戒網。


シエラ――夜警・古代区画確認。


フィア――地下森林・水脈・薬草園。


レナ――安全検証・事故対策。


ミノタウロス――外門・重量作業。


ピィ――自由。


湊は最後の一行を二度見した。


「ピィだけ雑じゃない?」


「ピィ!」


本人は満足そうだった。


ルゥが壁にもたれながら言う。


「適材適所」


「自由って役割なのか?」


「役割なの!」


フィアが断言した。


「一番偉い役なの!」


「絶対違う」


レナが即座に否定する。


湊は表の一番下を見る。


朝倉湊――迷宮改変・修理・その他。


「俺の『その他』広すぎない?」


ミナが困ったように笑う。


「湊さん、何でもやるので」


「荷物持ちだったからな」


その返答に、一瞬だけ空気が止まった。


ASTRAにいた頃も、湊は何でもやっていた。


だが意味は違う。


昔は、誰かがやりたくない仕事を押し付けられていた。


今は、自分で必要だと思ったことをやっている。


レナが表を見ながら言った。


「だから『その他』じゃなくて、管理者とか城主でいいんじゃない?」


「城じゃない」


「まだ言うの?」


「家だろ」


フィアが飛び上がる。


「森もあるの!」


「庭付きの家」


「庭じゃないの!」


朝からいつものやり取りが始まった。


その後、湊は各区画を回った。


ルゥの警戒網には、魔法だけに頼らない簡単な仕掛けが増えていた。糸、石、小さな鈴、匂いの残る草。


「魔法探知を切る奴でも、これなら分かる」


「なるほど」


「……前の現場では、こういうの私が全部やってた」


「じゃあ得意なんだな」


「まあ」


耳が少しだけ動く。


それ以上は言わない。


地下森林では、フィアが水路の流れを調整していた。


「そこ掘りすぎなの!」


「このくらい?」


「三センチ戻すの!」


「細かいな」


「精霊は細かいの!」


レナの区画では、壁材の一部が植物繊維を混ぜた柔構造へ変わっていた。


「フィアの森から落ちた繊維、衝撃吸収に使える」


「へえ」


「事故対策、前より楽になる」


フィアの自然区画が、レナの安全区画に役立っている。


ルゥの警戒情報は、シエラの夜警ルートへ渡される。


ミナの保存食管理は、全員の外出時間を安定させる。


ミノタウロスが重い石材を運ぶことで、湊の改変作業も早くなった。


誰か一人の能力だけで成立している場所ではない。


夕方、湊はSYSTEMを確認して眉をひそめた。


【相互協力による領域安定化】


【SP+31】


「また俺、何もしてない」


シエラが静かに答えた。


「主殿が場を作った」


「でも今日、俺が作ったの通路だけだぞ」


「場とは石壁のことだけではあるまい」


湊は少し考えた。


「難しいな」


「主殿は考えすぎぬ方がよい」


「それ褒めてる?」


「半分ほど」


シエラの声は相変わらず硬い。


だが、ほんの少しだけ冗談に聞こえた。


その夜、当番表の一番下に文字が増えていた。


朝倉湊――迷宮改変・修理・その他・帰宅確認。


「帰宅確認って何?」


ルゥが目を逸らす。


「……『おかえり』担当」


「役職になったのか、あれ」


「必要」


短い一言だった。


湊は表を見て、それ以上消そうとはしなかった。

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