第27話 全員そろって飯を食べたら、席が足りなくなった
夕食の時間になると、食堂は今までで一番騒がしくなっていた。
ミナが鍋を運び、レナが壊れやすい器具を少し遠ざけ、ルゥが入口に近い席へ座りかけて――途中で少し考え、今日は一つ内側の席へ腰を下ろす。
フィアは当然のようにテーブル中央の小皿を自分の領地にしていた。
シエラは食べる必要がないのに、鎧姿のまま椅子へ座っている。
入口脇ではミノタウロスが巨大な木椀を両手で抱え、その頭上にピィが止まっていた。
湊は食堂を見回した。
「……席、足りないな」
「人数が増えた結果を、今ようやく設備側から認識したの?」
レナが眉を上げた。
「重要だろ。立って食べると落ち着かないし」
ミナが笑いながら新しい皿を並べた。
「じゃあ明日、もう少し長いテーブルにします?」
「そうだな」
フィアが小さな拳で机を叩く。
「フィアの場所は狭くしちゃ駄目なの!」
「そこ元々、調味料置き場なんだけど」
「今日からフィアの席なの!」
「分かった」
「分かるの!?」
今度はルゥが小さく吹き出した。
湊は鍋を覗き込む。
地下森林で採れた香草と、迷宮内の食用獣肉を煮込んだシチューだった。
「これ、昨日より匂い違うな」
「フィアさんの薬草を少しだけ使いました」
ミナが答える。
フィアは胸を張る。
「当然なの。あの死んだ水で作った料理とは格が違うの」
「味の話に水質事故の評価を混ぜないで」
レナが淡々と切り分ける。
ルゥは一口食べると、耳をぴくりと動かした。
「……うまい」
ミナがぱっと笑う。
「本当ですか?」
「嘘ついてどうする」
短い言葉だったが、尻尾が少しだけ揺れている。
フィアはそれを見逃さなかった。
「尻尾は正直なの!」
「うるさい」
「痛いの!」
ルゥの尻尾に隠れようとしていたフィアが軽く払われ、今度はシエラの肩へ逃げる。
シエラは微動だにしない。
「避難場所として我が肩を使用することを許可しよう」
「助かるの!」
「ただし食事中の戦闘行為は控えよ」
「戦闘じゃないの!」
「少なくとも第三者が見たら、じゃれ合い判定にはならないわね」
レナが淡々と言った。
湊はそのやり取りを聞きながら、何となく笑った。
その瞬間、SYSTEMが小さく反応する。
【共同生活による相互親和を確認】
【SP+18】
「……また増えた」
「何が?」
レナが見る。
「SP」
「誰か加入した?」
「してない」
湊は食堂を見回す。
誰も新しく仲間になっていない。
ただ、一緒に飯を食べているだけだ。
「俺、何もしてないんだけどな」
ミナが少し考えてから言った。
「でも、みんなで食べるの初めてじゃないですか?」
「それで増えるのか?」
フィアがパンを抱えたまま口を挟む。
「知らないの。でも、ここ前よりずっといい匂いするの」
ルゥが鼻を鳴らす。
「それは飯の匂いだろ」
「違うの!」
「じゃあ何だよ」
「知らないの!」
結局分からないらしい。
食事の終わり頃、ピィが湊の皿から肉を一切れ奪った。
「あ」
「ピィ♪」
「またか」
ミノタウロスの木椀からも肉が一つ消えている。
巨体がゆっくりピィを見る。
ピィが動きを止める。
食堂が静かになった。
数秒後、ミノタウロスは自分の椀からもう一切れ肉を摘み、ピィの前へ置いた。
「ピィ!」
フィアが叫ぶ。
「甘やかしたら駄目なの!」
「その主張、普段の自分の行動と整合してないけど」
レナの即答に、食堂に笑いが広がった。
その夜、湊は食堂の壁を一枚動かした。
長いテーブルを置けるようにするためだ。
誰かに命じられたわけではない。
ただ、明日も全員で食べるなら、その方が楽だと思った。
【居住区快適度:上昇】
【共同食堂:正式施設化】
湊は表示を見て首を傾げる。
「食堂って、勝手に正式施設になるんだな」
後ろからミナが笑った。
「もう十分、食堂ですよ」
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