第26話 アンデッドがいるので、夜の魔王城が一番安全になった

シエラが来てから、魔王城の夜は妙に静かになった。


「昨夜、外周異常なし。東側通路に小型魔物三体。敵意なしのため放置した」


朝食の席で、シエラが淡々と報告する。


ミナがスープを運びながら困ったように笑う。


「シエラさん、寝なくて大丈夫なんですか?」


「アンデッドに睡眠は不要だ」


「便利だな」


湊が素直に言う。


シエラは少し胸を張った。


「我が主の安寧は、我が剣が守ろう」


「だから主じゃなくていいって」


「呼称は私の自由だ」


「そこは自由なんだ」


フィアがテーブルの端から口を挟む。


「フィアは反対なの! 夜中に森を歩くと、ぬるっと出てくるの怖いの!」


「ぬるっとは出ていない」


「出てるの!」


「足音を立てないだけだ」


ルゥがぼそりと言う。


「それが怖い」


シエラは少しだけ傷ついた顔をした。


レナがそれを見て笑う。


人数が増え、食堂の会話も賑やかになっていた。


ただ、シエラ自身はまだ食卓へ座ることに慣れていなかった。


食事は必要ない。


だからいつも壁際に立っている。


その日、湊は椅子を一つ増やした。


「何をしている?」


「シエラの席」


「私は食事を必要としない」


「座るのに食事必要?」


「……必要ない」


「じゃあ座ればいいじゃん」


シエラはしばらく椅子を見つめていた。


やがて、ぎこちなく座る。


ミナが何も言わず、小さな空の器を彼女の前に置いた。


「食べなくても、席はあっていいですよね」


ルゥも頷く。


「うん」


フィアは精霊樹の実を一個だけ器へ入れた。


「食べられないなら飾りなの」


「……感謝する」


その瞬間、湊のSYSTEMが小さく震えた。


【共同体信頼の増加を確認】


【SP+18】


「また増えた」


レナが表示を見る。


「今、湊は何もしてないよね」


「椅子作った」


「それだけ」


「うん」


二人は黙った。


SPは、主人公が直接誰かを救った時だけ増えているわけではない。


仲間同士が互いを受け入れた時にも増える。


まだ確信には遠い。


けれど、何かが少しずつ繋がってきていた。


その日の夜。


シエラの案内で、礼拝堂のさらに奥に古い記録庫が見つかった。


朽ちた石板には、現代SYSTEMでは使われない文字が刻まれている。


そして、その最奥。


巨大な扉に、古い紋章があった。


角を持つ王冠。


その下に、読めない古代文字。


シエラだけが顔を強張らせた。


「この紋章を、私は知っている」


「何の?」


シエラは低く答えた。


「かつて、この迷宮に封じられた……契約の大悪魔だ」


湊は扉を見る。


「この奥にいるの?」


「分からぬ。だが、封印区画はこのさらに下だ」


湊は少し考えた。


「じゃあ今は開けない方がいいな」


「賢明だ」


「客室にするには広すぎそうだし」


「理由が違う」


シエラの即答が、静かな記録庫に響いた。

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