第25話 死霊騎士を掃除したら、呪いだけ落ちた

【お掃除】を発動した瞬間、礼拝堂全体が白い光に包まれた。


「待て!」


シエラの声が響く。


「その術は危険だ。私まで――」


言葉が途切れた。


白い光はシエラの身体を削らなかった。


代わりに、彼女へ絡みついていた黒い瘴気だけが、煤のように剥がれ落ちていく。


床を這っていた鎖も一本ずつ色を失い、最後にはただの錆びた鉄へ変わった。


沈黙。


「……生きてる?」


湊が聞く。


シエラは自分の両手を見つめた。


「死んではいる」


「じゃあ無事か」


「その結論になるのか?」


レナが小さく笑った。


シエラは立ち上がった。


長い年月で染みついた重さが抜けたのか、動きは驚くほど静かだった。


「呪詛だけが消えた……?」


フィアが恐る恐る近づく。


「魂、ちゃんと残ってるの。変な濁りもないの」


ルゥも鼻を鳴らした。


「匂い、変わった」


シエラは剣を床へ置き、湊の前で片膝をついた。


「我が名はシエラ・ヴァルディス。命を救われた恩、我が剣と魂をもって返そう」


「重いな」


「当然だ。私は死者だ。返せるものはこれしかない」


「別に返さなくていいけど」


シエラの顔が止まる。


「……何?」


「借りとか契約とかにしなくていいよ。行く場所がないなら、うち来れば?」


「うち」


「食堂もあるし。森もできたし。部屋は作ればいい」


「貴殿は私がアンデッドだと理解しているのか」


「うん」


「人を殺してきた可能性もある」


「実際に殺したの?」


シエラは長く黙った。


「……暴走する前に、自らをここへ封じた」


「じゃあ今のところ問題ないな」


「判断が軽い!」


フィアが叫ぶ。


湊は首を傾げた。


「でも本人が嫌がってることを無理にさせる方が問題だろ」


シエラは俯いた。


長い時間のあと、低く息を吐く。


「私は、主に仕えることしか知らぬ」


「じゃあ仲間からでいいんじゃない?」


その瞬間、SYSTEMが鳴った。


【相互信頼の成立を確認】


【SP+87】


湊は表示を見て固まった。


「……アンデッドでも出るのか」


レナが横から覗く。


「SP?」


「うん」


「生きてるかどうかじゃないってこと?」


湊はしばらく黙っていた。


「たぶん」


シエラはSYSTEM表示を見ることができない。ただ、湊たちの表情から何かを察したらしい。


「私は……ここにいてよいのか」


「いたいなら」


シエラは再び膝をつこうとした。


湊が止める。


「それ毎回やるの?」


「礼儀だ」


「腰痛めない?」


「私は死者だ」


「そっか」


レナが吹き出した。


その夜、魔王城に初めて夜番が生まれた。


誰にも頼まれていないのに、シエラが入口の前で剣を抱えて立っていたからだ。

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