第24話 森の奥で、死んでいるはずの騎士が歌っていた

地下森林ができてから三日目の夜、湊はまたあの歌を聞いた。


低く、古く、どこか祈りに似た旋律だった。


「また聞こえるな」


肩の上でピィが小さく羽を震わせる。


「ピィ……」


フィアは精霊樹の枝に腰掛けたまま、いつもの勢いを失っていた。


「だから言ったの。あれ、生きてる音じゃないの」


ルゥの耳もぴんと立つ。


「匂いが、ない。でも、いる」


レナは腰の武器に手を置いた。


「行くの?」


「誰かいるなら、見ておいた方がいいだろ」


「その言い方でアンデッドを見に行く人、初めて見た」


「そうか?」


「褒めてない」


歌声を追って森の奥へ進むと、精霊樹の根が触れていない古い石壁が見つかった。


【未接続旧区画】


【魂魄反応:あり】


【生命反応:なし】


「やっぱり死んでるの!」


フィアが湊の襟元へ隠れる。


「でも魂魄反応はあるんだな」


「そこ冷静に読むところなの!?」


壁を慎重に開くと、その先には小さな礼拝堂があった。


崩れた柱。黒ずんだ祭壇。床を埋める古い鎖。


そして中央に、一人の騎士が跪いていた。


銀だったはずの鎧は黒く変色し、長い髪は灰色に褪せている。それでも姿勢だけは美しく、両手で剣を立て、目を閉じたまま歌っていた。


湊たちが足を踏み入れた瞬間、歌が止まる。


騎士の目が開いた。


青白い光が宿っていた。


「……生者が、なぜここへ来た」


声は低く、静かだった。


ルゥが一歩前へ出る。


「敵意、ある」


「違う」


騎士はゆっくり首を振った。


「敵意ではない。警告だ。近づくな」


次の瞬間、床の鎖が一斉に蠢いた。


黒い瘴気が噴き上がり、騎士の身体へ絡みつく。


「ぐっ……!」


彼女は剣を握る手に力を込め、無理やり自分の身体を押さえ込んだ。


「私は、シエラ。かつてこの迷宮を守っていた騎士だ」


「かつて?」


「死して、なおここに縛られている」


黒い鎖が彼女の腕を持ち上げる。


剣先が湊へ向く。


「だから、帰れ。次に身体が動けば……私は貴殿らを斬る」


湊は鎖を見た。


それから、シエラ本人を見る。


「その鎖、邪魔なんだな」


「……何?」


「本人が斬りたいわけじゃないなら、鎖の方をどうにかすればいいだろ」


レナが額を押さえた。


「また環境側を直そうとしてる」


「本人を直すより早そうだし」


シエラの青白い瞳が揺れた。


「私を……浄化するつもりか」


「浄化って消えるやつ?」


「通常は、そうだ」


「じゃあ嫌だな」


「……嫌?」


「話できるのに消す必要ないだろ」


シエラは言葉を失った。


その間にも、黒い鎖は彼女の身体を侵食していく。


湊は手を伸ばした。


「とりあえず、掃除してみるか」

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