第18話 誰より先に危険に気づいたのは、新入りの獣人だった
ルゥの脚が普通に歩けるまで回復したのは、その二日後だった。
朝食を終えたあと、本人はすぐに荷物をまとめ始めた。
「もう動ける」
「よかった」
湊は素直に言った。
ルゥは一瞬だけ止まる。
「……止めないのか」
「行くなら止めないよ」
「そう」
尻尾がわずかに下がった。
だが、その日の昼。
ルゥはまだSanctuaryにいた。
「足の確認」
本人はそう言った。
午後になってもいた。
「外周の地形、覚えてから出る」
夕方にもいた。
「……暗くなったから、明日にする」
レナが湊へ小声で言う。
「気づいてる?」
「何が?」
「何でもない」
翌朝。
外周へ出た瞬間、ルゥの耳が鋭く動いた。
「止まって」
全員が足を止める。
レナが周囲を見る。
「何かいる?」
「人間。三人……いや、四人」
「見えるの?」
「臭い。鉄と油。それと、同じ香水」
ルゥは床へしゃがみ、薄く積もった砂を見る。
「昨日ここを通ってる。二人は重装備。一人は軽い。もう一人は……罠師」
湊が首を傾げた。
「罠師まで分かるの?」
「靴底に薬品臭がある。罠用の粘着剤」
言いながら、ルゥは通路の隅へ小石を投げた。
何もない空間で、細い糸が光る。
直後、壁から拘束網が飛び出した。
「うわ」
湊が一歩遅れていたら、真正面から受けていた。
「探索者避けじゃない。追跡用だ」
ルゥの声が低くなる。
「誰かを捕まえて、生かしたまま連れていく罠」
レナと視線が合う。
「私の追手?」
「違う臭い」
ルゥは短く答えた。
その声には、知っているものへの嫌悪があった。
湊は聞かなかった。
代わりに言う。
「じゃあ正面から行かない方がいい?」
「右の旧水路を通れば避けられる」
「分かった。案内お願いしていい?」
ルゥが振り返る。
「先頭に立てってこと?」
「違う。道を教えて。先はミノさんに歩いてもらう」
ミノタウロスが無言で前へ出る。
ルゥの耳が少しだけ緩んだ。
「……それなら」
旧水路へ迂回する。
結果として、探索者たちと衝突せずに外周点検を終えることができた。
戻る途中、ミナが笑顔で言う。
「助かりました。ルゥさんがいなかったら、きっと大変でしたね」
「別に。これくらいしかできない」
「これができる人、他にいないよ」
湊が言う。
「ミノさんは臭い分かっても説明できないし、俺は普通に罠踏むと思う」
「自慢するところじゃないわよ」
レナのツッコミが入る。
「そう?」
「そう」
ルゥは三人を見ていた。
「でも」
少しだけ躊躇ってから言う。
「できなくても、ここにいていいって言っただろ」
「うん」
「なら、できた時くらい褒めてもいい」
レナが先に笑った。
「かなり面倒くさいわね、あなた」
「うるさい」
その日の午後、湊は外周に簡単な警戒網を作った。
魔法ではなく、臭いと音の変化を利用したもの。
ルゥに確認しながら位置を決める。
「ここは風が流れるから駄目」
「じゃあこっち?」
「そこなら分かる」
使う人に聞く。
もう湊にとっては、それが普通になっていた。
夜の食堂。
ルゥはいつもの壁際の席へ向かいかけた。
途中で止まる。
そして、レナの隣の椅子を引いた。
出口からは遠い席だった。
誰も何も言わなかった。
SYSTEMだけが静かに表示する。
【SP+27】
「……また俺、何もしてないけど」
湊が呟く。
レナが聞きつけた。
「何か増えた?」
「SP」
「でしょうね」
「なんで分かるの」
「あなた以外は、だいたい分かってると思う」
湊は首を傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます