第6話 荷物持ちなので、魔王城を掃除します

拠点を作るより先に、掃除が必要になった。


湊はそう判断した。


割れた石扉。


床についた大型魔物の血。


爪で削られた壁。


何より厄介なのは、通路の奥から漂ってくる紫色の瘴気だった。


このままでは生活範囲を広げるどころではない。


「五ポイントなら安いしな」


湊は【お掃除】を取得した。


【5SPを消費しました】


【お掃除を取得しました】


名前はどう見ても家事スキルだ。


試しに床の血痕へ意識を向ける。


「掃除」


血が消えた。


一瞬だった。


拭いた痕すらない。


「便利だな」


小鳥――いつの間にか湊の中では完全に「ピィ」と呼ぶことが定着していた――が床へ降りる。


湊は泥も消してみた。


埃も消した。


砕けた細かな石屑も、不要物として指定すると一か所へまとめられた。


「これ、ASTRAの野営撤収に欲しかったな」


何時間もかけて片付けていたのが馬鹿らしくなる。


綺麗になった床をピィが嬉しそうに走り出した。


勢いがつきすぎたらしい。


つるり、と足を滑らせる。


「ピィ!?」


そのまま腹ばいで数十センチ滑った。


湊は吹き出した。


「綺麗にしすぎたか」


「ピィ!」


抗議するように鳴かれた。


問題は瘴気だった。


掃除で消せるものなのか分からない。


湊は試しに部屋全体を指定する。


「この辺、全部綺麗にできるか?」


【範囲清掃を実行】


淡い光が床から壁、天井へ広がった。


埃が消える。


血も消える。


そして。


部屋に漂っていた紫色の靄まで消えた。


「……ん?」


湊は瞬きをした。


空気が明らかに違う。


昨日から感じていた喉の軽い痛みまでなくなっていた。


【対象を“汚染”と判定】


【浄化を実行しました】


「汚染?」


壁にあった黒い染みへ手を向ける。


鑑定すると、深層性呪詛痕と表示された。


「これも?」


【浄化】


消えた。


毒性の苔。


消えた。


腐敗菌の塊。


消えた。


湊は自分の腕に残る小さな紫色の斑点を見た。大型魔物の瘴気を吸った影響で、軽度毒状態になっている。


試しに自分を指定する。


【軽度毒性汚染を検出】


【除去可能】


「……掃除って、人間にも使うものだったか?」


疑問を抱きながら実行する。


身体の重さがすっと消えた。


ステータス欄の毒表示も消える。


湊は黙った。


「ピィ?」


「いや。たぶん俺が知ってる掃除と違う」


とはいえ便利なものは便利だ。


湊はそのまま隣接区画へ進んだ。


長年放置されていたらしい通路は、黒い苔と瘴気で塞がれている。


【範囲浄化】


一度で数メートル先まで綺麗になる。


迷宮改変で危険箇所を補修し、お掃除で汚染を取り除く。


一時間も経たないうちに、昨日まで立ち入れなかった複数の区画が生活可能な状態になった。


「物置に使えそうだな」


湊の発想はあくまで地味だった。


視界には、十人以上が暮らせそうな空間が広がっている。


だが本人は、荷物を置く場所が増えた程度にしか考えていない。


「食料が増えたらこっち。装備は向こう。水場に近い方は洗い物用……」


無意識に動線まで考える。


荷物持ち時代の癖だった。


ピィは後ろからついてくる。


最後の黒い汚染を消した瞬間、壁の一部が崩れた。


正確には、汚染に覆われて見えなかった古い通路が姿を現した。


「こんなところにも道があったのか」


通路の奥は暗い。


そこから、低い呼吸音が聞こえた。


湊は端末のライトを向ける。


巨大な影が動いた。


頭には二本の角。


岩のような筋肉。


手には、自分の身体ほどもある巨大な斧。


「……掃除しすぎたかな」


ピィが肩の上で、小さく身構えた。

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