第3話 知らないポイントが増えている
目を覚ました湊の視界には、朝から見慣れないものが浮かんでいた。
【使用可能SP:50】
「……SPって何だ?」
肩の上では、昨日助けた小鳥が元気そうに「ピィ」と鳴いている。
湊は念のため自分のステータスを開いた。レベル、体力、魔力、所持スキル。そこまでは見慣れた表示だ。探索者になってから何度も確認している。
だが、一番下に小さく表示されているSPだけは見覚えがなかった。
昨日まではゼロだったはずだ。
「お前と仲良くなったら増えた……ってことか?」
「ピィ♪」
「いや、聞いても分からないよな」
そう言った直後、視界に新しい表示が開いた。
【取得可能スキル】
【土木作業:5SP】
【整理整頓:8SP】
【お掃除:5SP】
【平伏:10SP】
【お友達:15SP】
【お昼寝:20SP】
【???:1,000,000SP】
湊はしばらく無言で一覧を眺めた。
「……ろくなのないな」
命の危険が常につきまとう《奈落》第九十八階層で表示されるスキルとは思えない。
土木作業。整理整頓。掃除。昼寝。
どれも探索者というより家事代行か施設管理員向けだ。
【平伏】に至っては意味が分からない。
「これ、土下座が上手くなるのか?」
試す気にはなれなかった。
【お友達】にも指を止める。
「友達って、スキルで作るものじゃないだろ」
肩の小鳥が湊の頬をつついた。
「痛い痛い。お前は別だよ」
「ピィ」
少し嬉しそうに聞こえる。
【お昼寝】には一瞬だけ心が揺れた。昨夜は小鳥の体温のおかげで眠れたものの、身体中がまだ痛い。安全に眠れるスキルなら相当ありがたい。
だが、先に必要なのは寝る場所だった。
今いるのは崩れた通路の一角。魔物が来れば終わる。
「まず屋根と壁だな」
屋根ならすでにあるが、そこは気にしないことにした。
湊は【土木作業】を選択した。
【5SPを消費します】
【土木作業を取得しました】
【旧管理権限との接続を確認】
【権限レベル1を復旧】
【土木作業を有効化します】
「……旧?」
復旧という言葉も気になる。
取得ではないのか。
考えようとしたところで、小鳥が耳元をつついた。
「だから痛いって」
「ピィ!」
どうやら腹が減ったらしい。
湊は苦笑しながら栄養バーを少し削って与えた。
食べ終わったところで、改めて【土木作業】を試してみる。
名前通りなら、穴を掘ったり岩を砕いたりできるのだろう。
足元に転がっていた拳大の石へ手を伸ばす。
「これ、邪魔だな」
そう思った瞬間だった。
視界に薄い青色の線が浮かび、石を中心として床一帯が格子状に区切られた。
【編集範囲を指定してください】
「編集?」
湊が石を指先で示す。
石が音もなく床へ沈んだ。
「……え?」
穴が開いたわけではない。
まるで最初からそこに石など存在しなかったかのように、床が綺麗に平らになっている。
湊はしゃがみ込み、手で撫でた。
硬い岩盤だ。
「便利……なのか?」
試しに少し離れた床へ意識を向ける。
【編集対象:床面】
【整地/隆起/沈降/材質再配置】
今度は壁を見る。
【編集対象:壁面】
【移動/補強/開口/閉鎖】
天井にも同じような表示が出た。
湊はゆっくり立ち上がった。
「土木作業って、こんなに何でも触れるものだったか?」
もちろん普通の土木作業をした経験はない。
だが、少なくとも岩壁を指一本で編集する仕事ではないはずだ。
小鳥は興味深そうに格子状の光を見つめ、床をちょこちょこと歩いている。
湊は壁へ手をついた。
その瞬間、表示が切り替わった。
【編集対象:第98階層・構造体】
対象範囲を示す線が、目の前の壁だけではなく、通路の奥、その先まで一気に伸びていく。
湊は数秒黙った。
「……土木作業って、こういう意味か?」
肩の小鳥だけが、楽しそうに「ピィ」と鳴いた。
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