第5話
※ショッキングな描写が最後にあります、ご注意ください※
セレスティア王国との条約締結、および国賓パーティから数週間が経過した。
貿易は順調に進み、このままいけば、他の国にも同様の提案が出来そうなほど、
互いの国は、順調に利益を生み出していた。
お互いの王家との交流も、やがて盛んになっていくだろう。
レオンと友人になりたい、と言っていたアレクシス王子も
度々手紙を出してくれている。
…しかし、そんな手紙を送られている本人はと言えば…。
「殿下は、本日もお部屋からお出にならないそうです」
侍女からそう告げられた私は、しばらく言葉が出なかった。
「……そう」
あの国賓パーティで、あんなに立派に王子として振舞っていたレオン。
アレクシス王子との会話で…涙を流したレオン。
あの日の晩から部屋に戻ったきり、今日になっても姿を見せないらしい。
「…公務は?」
その質問に対しても、侍女は首を横に振るだけ。
…確かにレオンは、条約締結という大きな仕事を終わらせた、
だからといって、サボっていいわけでもない。
「奥様…いかがいたしましょうか」
「…」
普段であれば、数日待てばしばらくは働いてくれた。
…だけど、もうすぐ、ひと月は経つ。
このまま放置して公務を止めっぱなし、というのは
いささか…いや、かなりマズい。
「アルベルト殿下に相談しましょう、上着を用意して」
侍女に指示すれば、私は国王のいる執務室に急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アルベルト殿下、つまりレオンの父親であり国王でもある彼は、
長い白髭を撫でながら考え込んだ。
「…レオンが…部屋から出ない、と」
重苦しい空気が執務室を包む。
アルベルト殿下が深く背もたれに体を預ければ、
きぃ、と軋む音が椅子から鳴った。
「…なぜだ?」
「…」
私は、何も言えなかった。
長い付き合いをしていて、なぜこうなったのか、
理由がわからないのだ。
「…答えられぬか」
「…申し訳ございません」
頭を下げようとする私を、アルベルト殿下は手で制した。
「いや、いい。
…私もレオンの父親であるが、同様に答えられんのだから」
目を伏せて首を横に振る、アルベルト殿下。
2人そろって、溜息をつく。
目下の悩みは、止まってしまっている公務だ。
特に王国予算会議、決定権を持つ王子が不在の今、
すでに停滞しており、早急に進める必要がある。
どうにかしてレオンを動かしたいが…。
…あの日の涙が、ずっと頭から離れない。
何かあったのかもわからないまま、
彼を働かせるほど、我々は鬼ではない。
…それはそれとしてどうしたものか。
2人そろって考えあぐねていた。
しばらくして、陛下は口を開いた。
「レオンが戻るまでの間、お前の判断で公務を進めても構わん」
「……私が、ですか?」
「ああ」
あっさり、軽い様子で。
私は、心の奥底で冷や汗をかいた。
王国で、王族でもない者が…
婚約者であり、肩書もまだ侯爵家の私が…
一国の公務を担う。
それが、どれほど重いものなのか。
「…それは、…その…大丈夫なんでしょうか」
声も、緊張で震えてしまう。
しかし、国王…アルベルト殿下は優しく微笑んだ。
「そなたが、いかに努力しているか、知っておる。
それに、レオンを心より慕っておることも」
「…」
それは、間違いではなかった。
レオンのためなら…、私は何だってする覚悟だ。
決意に、私は手の平に力が入るのを感じた。
この国と、レオンを守るんだ。
「…やります」
自然と、力強い返事で返せた。
優しい笑みを見せたままのアルベルト殿下は、書状を一筆書いた。
…今、レオンと同等の権力が…私に託された。
…レオン。
心の奥底で、名前を唱える。
貴方の考えている事、抱えている物。
それに手が届くなら…私は、貴方の代わりを…
全力で努めます。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――王国予算会議。
それは税として収められたお金や収入、
あらゆる歳入をいかにして使うか。
また、各大臣は自分の所属する省庁に
いかほどの金額が必要なのか。
それらを突き合わせ、お互いに認識を合わせる
重要な会議だ。
会議開始10分前、
それぞれの省庁の大臣が次々と会議室に入ってくる。
「ようやく進められますな」
「いやはや、殿下のサボリ癖にはまいったもんだ」
口々にぼやきながら定まった席に座る。
…私の席は、普段レオンが座っている、上座の席。
全員が席に着いた後、私は立ち上がり、挨拶をする。
「レオンハルト殿下の代理として、
この予算会議は私、リゼット・ヴァレンシュタインが取り仕切ります。
また、この予算会議においてのみ、
レオンハルト殿下と同等の権限を、アルベルト国王より賜っています。
以後、よろしくお願いいたします。」
頭を下げて、挨拶をする。
大臣達は様々な視線を送ってくる。
値踏みを垂れる目線、下卑た目線、無感情な目線。
…事実、王族ですらない、侯爵家の令嬢に権限が渡っている、例外中の例外なのだ。
このぐらいの視線、覚悟の上だ…どうってことない。
着席し、テーブルの資料を確認する。
「では、財務大臣である私…フリューゲルスから、
まずはお話しさせていただきます。」
フリューゲルスは立ち上がり、説明を開始する。
窓から差し込む光が、毛の無い頭部を照らし、
立ち上がったことで皺の無いローブは揺れ、
浮き出たお腹のシルエットを強調する。
「セレスティア王国との条約締結の結果、貿易の回数の増量
それにともなう、人員の募集増、…労働者が増えたことにより、
今後は納税額が増える見込です」
慣れた口調だ。きっと普段から仕切っているのは彼なのだろう。
納税額増加の報せに、他の大臣らも口々に喜ぶ。
「良い事だ」「すばらしい」「我が国は安泰だな」
うんうん、と頷く大臣ら。
……、この喜ぶ姿を、本当は…レオンが見るべきだった。
手元の資料には、セレスティア王国の物資が導入されることで
見込まれる歳入額の、具体的な数値が書かれていた。
私たちは、今からこれを切り分けていかねばならない。
フリューゲルスは続ける。
「現在、予想される見込の数値はお手元の資料に詳細がございます。
前年度に比べて、7%の増加が見込まれます」
7%、パーセントに換算されると少ないが、
金額に換算すると約2億という巨大な数値にもなる。
こうして金額でいえばかなり大きい。…しかし。
一人の大臣がポツりとつぶやいた。
「7%か…少ないな」
…は?
思わず絶句した。
静かな会議室で、つぶやかれたその言葉は、
会議室全体に聞こえていた。
するとポツポツ、と不満の声が、各省庁大臣から溢れてきた。
「確かに」「条約というものだからもっと増えるかと」「こんなものか」
…何を、言っているのだ?こいつらは。
資料を改めて見る。資料上では7%と大きく表示されているが
もちろん額面の数値も記載がある。約2億の数字、きちんと読めばわかるはずだ。
なのにこの大臣らは、大きく表示された数字ばかりを見ていて
実際の歳入額を見ていない。
さらに、一人の大臣は、とんでもない事を言い出した。
「関税が昔のままなら、もっと稼げたのに」
その言葉は、レオンを侮辱するのに等しかった。
バン!!!
気づいた時には、私は机を大きく叩いていた。
破裂したような乾いた音に全員の注目がこちらを向く。
「この7%は金額になると、約2億にも上る歳入になります。
それらを少ないと言い張るのですか?」
「…」「…」「…」
黙りこくった。
まるで、怒られた子供がすねているようだ。
私は続けた。
「…この7%も2億の数字も、条約締結による歳入増加の見込み数値です。
条約締結がなければ、関税で稼げても、税収も歳入も前のままです。
…違いますか?」
「…」「…」「…」
無言の肯定。
私は真っ赤になった手を握って痛みを堪えていた。
ジンジン、とした痛みに耐える。
「…続けてください」
フリューゲルスに指示する。
「…では続けます…」
大臣は聞こえないように溜息ひとつ、
そのまま資料の数値と具体的な予想を述べていく。
…
ゆっくりと深呼吸して、怒りを鎮める。
この人たちは…王族を、レオンをなんだと思っているのだろう。
さらには、その婚約者にまで、目の前で溜息…。
他の大臣を一瞥すれば、どれも似たような反応。
この人達は…王族をなんという目で見ているのだろうか。
…いや、今は予算会議をきちんと行うべきだ。
話を聞きながらそう考えた。
「…以上が見込詳細になります。続いての資料をご確認ください。」
フリューゲルスが読み上げを終え、私達は資料を1つめくる。
…そこに書かれた項目を見て、さらに私は…目を丸くした。
フリューゲルスが当然のように口を開いた。
「では、来年度の税収確保のため、各種税率をさらに引き上げる案についてですが――」
「お待ちください」
間髪入れず、私は止める。
先ほど見込み金額が大幅に上がると言ったばかりだ。
さらに言えば…
「去年も増税なされましたよね?」
―そう、記憶が確かであれば、去年も税制を切り替え、
国民から徴収する金額を少し増やしたはずだ。
…これ以上の増税は、無意味にも見える。
「ええ」
フリューゲルスはあっさりと認めた。
悪びれもなく、話の意図を掴めていないように。
「…なのに、もう増税の話ですか?」
「…」
また、黙る。
レオンのような黙り方ではない、
怒りをこちらに向けるような黙り方だ。
私は構わず続ける。
「さらに言えば、歳入見込みも増えると報告がありました、
減税、とまではいかないにしろ、増税はありえません。
…無意味でしょう」
「国庫の安定のためには必要なのです」
「安定?」
安泰なのでは?安定しているのでは?
なのになぜ…?頭が混乱してくる。
「具体的には、何に使うのです?」
「それは……国家運営のために必要な費用を増やすのに…」
「例えば?」
慌ててフリューゲルスは資料をめくり、考える。
「…た、例えば…」
私も資料をめくり、首をかしげる。。
例えば漁業の支援金と書かれているものについて、予算増額を希望する記載があるが
具体的になにをどう使うか、までが書かれていない。
国交省も接待費の増額を希望しているが、
今のところ必要になる機会が思い浮かばない。
さらに言えば、ここまで待っても大臣の声は上がらない。
…私は、溜息が出た。
「つまり、何に使うかも決まっていないのに、
先に国民から取るということですか?」
その一言に、大臣達の顔が曇った。
バツが悪そうな顔、余計な事を言いやがって、とでも言いたそうな顔。
…呆れて言葉も出ない。
それでも、政の基本中の基本となることを、改めて言わねばならなかった。
「…国民は、無限の財源ではありません」
「…」「…」「…」
「搾り取れば搾り取るほど国民の生活は苦しくなり、反発を買います
税に取られるからと金を隠され、稼ぎが税になるからと国を離れ
やがて、国は貧しくなります。…わかっていますか?」
「…」「…」「…」
また、黙った。本当に子供だ。
…この会議は限られた予算の中でどうするか、という話ですらない。
潤沢な歳入、それらをどう切り分けるか、という話だったはずだ。
俯いて目すら合わせなくなったフリューゲルスがこちらを向く。
「殿下ならば、ご理解くださるでしょう」
意外な所で、レオンの名前があがった。
「……レオンなら?」
「はい。レオンハルト殿下なら、国のために必要なことだとご理解くださるはずです」
その言葉に、胸の奥がざらついた。
なぜ今、レオンの名が出てくるのだろう。
眉間に皺が寄り添うになるのを堪える。
フリューゲルスは止まらなかった。
「…レオンハルト殿下をお呼びください」
「…レオンハルト殿下は今療養中です、私が代理です。
最初に説明したはず…」
バン!
また机が叩かれる音、今度はフリューゲルスが苛立ったように机を叩いた。
「王子をお呼びください! 女のあなたではお分かりにならない!」
会議室が静まり返った。
私は唖然とした。
何故、今性別の話が出るのだろうか。
なぜ、レオンはこれを通してくれると思っているのだろうか。
レオンは引きこもりがちだが、無能ではない。
…こんなもの、通すはずがない。
怒りを抑えながら、説明しようとするが、呆気に取られて言葉が出ない。
唖然としたのを良い事にフリューゲルスは続ける。
「これだから侯爵家から出た箱入り娘は!」
「今、国の歳入は上がっている、上り調子なんだ!
そこに増税が加われば、…国は潤うんだ!なぜそれがわからない!」
「去年の増税の時はレオンハルト殿下も頷いてくれた!
夫婦になるくせに、なぜそこは頑ななんだ!
王子のように柔軟な思想を持つべきではないのか!」
ガミガミと唾を飛ばすフリューゲルス。
はっきり言って反論する気も起きないぐらい、拙い内容だ。
このフリューゲルスが今まで、財務大臣を行えたのが奇跡と思えてきた。
「フリューゲルス殿」
心底呆れた私の声は、自分でも驚くほど冷たい声が出た。
その声にガミガミとまくし立てていたフリューゲルスが、ピタリと止まる。
「……私は、レオンハルト殿下と同等の権限を
国王陛下から預かっています。」
「それとこれとは関係が…」
「私の判断能力に信任が無いと主張するのであれば、
国王陛下が私に信任を与えたことも疑問をお持ちなのでしょうか?」
「くっ…!」
フリューゲルスは歯噛みをしながら悔しそうに睨みつける。
それに対し、私は眉間に皺が寄るのすら、隠すことなく言い放つ。
「歳入が増えたから増税?上り調子だから国家が潤う?
…その方法で潤うのは王城だけです、国民は富みません」
「…民草がなんだ」
「民草を育てることが、国が潤う、ということです。
あなたの話は、むしり取る、という表現に他なりません」
「……っ!!」
フリューゲルスの血圧があがり、
毛の無い頭に、赤みが増す。
悔しそうに、フリューゲルスは言葉を搾りだす。
「…正式に国王陛下へ抗議いたしますぞ!」
「勝手になさい」
冷たく、即答する。
心頭冷え切ったままフリューゲルスを睨みつけ、
立ち上がった腰を再度席に下ろす。
「私も陛下には、この会議で何があったのか、そのまま報告します」
「…貴女の頑固さが顕著に出るだけです、恥をかく前に…」
「もちろん、あなたの罵詈雑言もそっくりそのまま、報告します」
「…は…?」
今度はフリューゲルスが唖然としてしまった。
私は、言われた内容をそっくりそのまま復唱する。
「"これだから伯爵家から出た箱入り娘は"、"夫婦になるくせに何故そこは頑ななんだ"」
「…」
「…レオンがサボりたくなるのもわかります。
こんなわけのわからない大臣の相手をする等」
はぁ、と隠すことなく溜息をつく。
フリューゲルスはようやく、自分が怒りのあまり放った言葉の数々を理解したようで、
赤かった頭は次第に、青くなっていった。
何も言えなくなったフリューゲルスの代わりに進行を行う。
「…では、次の予算案は誰が出しますか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
やがて、会議が終わりを告げる。
「…以上の修正案を来週までにまとめてください。…今日はご苦労様」
そうつぶやくと、大臣達が会議室からぞろぞろと外に出ていく。
フリューゲルスは最後まで青いままだった。…来週には、もうこの王城にはいないだろう。
私も会議室を出ると、外はすっかり夜になっていた。
「…はぁ」
溜息が出る。
はっきり言って、他の大臣達もフリューゲルスと似たり寄ったり。
この国の大臣達は王子への敬意が、まったく足りていない。
王子が折れるのを前提で組まれたような予算案、
あからさまにくすねる気満々の増税案。
突っ込めば突っ込むほど、ボロが出てきた。
それらを指摘すれば、フリューゲルスのように抵抗してきた。
王子ならわかってくれると言うが、…王子なら折れてくれる、と言っているのも同義。
私が折れなかったらゴネるか、下に見て脅す。
…反吐が出るかと思った。
「お疲れ様です、リゼット様」
「ええ、お疲れ様」
通りがかりの侍女が声をかけてくれる。
「今日は、レオンの調子は…?」
「…」
侍女は黙って首を横に振った。
もうこの会話も、何度目だろうか。
今日もまた、1日…レオンは部屋から出てこなかった。
…今ではサボった呆れより、心配の気持ちが強い。
「わかったわ、ありがとう」
そう言うと侍女はお辞儀ひとつし、離れていく。
私は部屋に戻って、机に突っ伏した。
…少し一人になりたかった。
「……本当に疲れた」
たった一度の会議。
どんなものかと身構えていたが…
結果は散々たるものだった。
「…」
そして、ふと思った。
レオンは…
これを、何度繰り返していたのだろう。
「……」
私は椅子の背もたれに背を預けた。
あれは会議なんかじゃない。
自分の要求を通すまで、何度でも同じことを言ってくる…
まるで子供の相手だった。
王子なら分かってくれるだろう…
王子なら判を押してくれるだろう…
王子なら国のことを考え、この案を…
王子なら――。
「……だから、嫌だったの?」
今まで私は、レオンのことを「公務をサボる王子」だと思っていた。
何度叱っても部屋から出てこない、困った人。
やる気が無いと言って、公務を抜ける、何を考えているのかわからない人
…だけど…。
「……サボりたくも、なるわよね」
初めて、そう思った。
王子の仕事というのを理解していなかったのは…
レオンではなく――私のほうだった。
王子の側近、王城の大臣、そういった肩書を持つだけで
威張り、恐喝し、王子相手でさえ、ワガママを通す…
そんな人間がいるなんて、私は知りもしなかった。
王妃教育だけではわからない、現場の仕事。
…これが、レオンの仕事だったのね。
「……謝ろう」
私は立ち上がった。
今こうしている間にも、
レオンは傷ついているのかもしれない。
居ても立っても居られず、部屋を飛び出した。
もし、もしそうだとしたら…
レオンを支えて、守ってあげないといけない。
…謝って、話を聞こう。
レオン1人がダメなら、2人で歩んでいきたい。
やがてレオンの部屋が近づいてくる。
扉の前に立ち、ノックを2つ。
コン、コン
「…レオン?」
返事は、ない。
それでも、話さねばならない。
「…今日ね、予算会議があったの。
…義父上から特例で、王子程の権力を持って…」
まだ、返事は無い。聞いているのかもわからない。
「…それでようやくわかったの。…レオンがどれだけ大変なのか」
それでも話したい…この扉を、開けてほしかった。
「…ねえ、レオン…私に、どれだけ大変だったのか…もっと教えて」
焦る気持ちが言葉に乗る。
早口になって、つい、喋りすぎてしまう。
「王子っていう仕事がどれだけ大変なのか、まだまだわからない…
フリューゲルスや他の大臣が、どんな目で貴方を見ていたのか…
そのぐらいしかわからないの。…お願い…あなたを支えたいの」
涙声になっているのが自分でもわかる。
あまりにも、自分が不甲斐ない。
支えると言った手前、現実は…愛した相手の気持ちを汲めず、
部屋に閉じこめてしまった。
「…レオン…大丈夫だよ」
前を向く、レオンに届くように。
「…私が支えるから。…私も一緒だから…一緒に、頑張ろう」
祈るように、声を投げた。
「…レオンなら、立派な王子になれるよ」
その時だった。
ガゴン!ガタン!
何かが倒れる音がした。
「…レオン?」
何故だかその時、とても…嫌な予感がした。
許可も取らずに扉を開け放つ。
「レオン!」
目の前に飛び込んできたのは、
レオンの背中だった。とても見慣れた、寝巻姿の背中。
しかしその位置は、…私の頭よりも高い場所。
私はだんだんと視線を下げる。
私の目線と同じ高さにはレオンの腰、
また目線を下げる、床には…
「い…い…」
転がった椅子と、
宙に浮いた、レオンの足。
「いやああああああああ!!!」
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