第4話 聖女は愛しき人のために時を巻き戻す

○ベケット伯爵邸・二階にあるアイリーンの部屋(午前)


   嫁入り支度をするアイリーン。

   荷物をまとめたりして、バタバタしている使用人たち。

   ベッドの傍らに立つアイリーン。

   アイリーンは思い出のオルゴールを手に取り、父を思いだしている。


アイリーンM「この屋敷を後にするのは寂しいけれど、お父さまが生きてらしたら、どんな表情を浮かべて、どんなことを言うのかしら?」


   執事がアイリーンに話しかける。


執事「お嬢さま。荷物はほとんど運び出し終わりました」

アイリーン「ごくろうさま」


   執事はアイリーンに礼を取る。

   姿勢を正してアイリーンに話しかける。


執事「いよいよ明日ですね」

アイリーン「ええ。貴方にもお世話になったわね。ありがとう」

執事「いえいえ。嫁がれても、この家はお嬢さまの家です。いつお嬢さまがお戻りになられてもいいように、このお部屋は整えておきます」

アイリーン「ありがとう」

執事「仕事ですから。それよりもおひとりで他家へ嫁がれることになるとは……」


   気づかわし気な執事。

   沈んだ表情のアイリーン。


アイリーン「ええ。ばぁやと一緒に行きたかったわ」

執事「その代わりといってはなんですが……。お嬢さまのお子さまがいつでも継げるように、我々使用人一同、ベケット伯爵家をしっかりお守りいたします」

アイリーン「まぁ。……ふふふ。期待しているわ」


 執事と和やかに会話するアイリーン。

 二階の窓からアイリーンの荷物が馬車へ積み込まれていくのが見える。

 使用人たちが忙しく立ち働く姿を、柱の影からルシアが睨んでいる。


ルシアM「なんでアイリーンばかりが幸せに? あの子は何もできないし、何もしていないというのにっ! こんなの不公平よっ!」


   どす黒いものがルシアを包んでいる。

   それをルシアの背後から見て笑っているアダム。

   アダムはそっとルシアの側に近寄ると耳元でささやく。


アダム「ルシアさま。私に良いご提案があるのですが……」

ルシア「何?」


   アダムがコソコソと耳元でささやくと、ルシアの表情が輝く。


ルシア「それはいいわね。ええ、そうしましょう」


   ニヤニヤ笑いながら、ルシアはアイリーンの部屋を見上げる。


アイリーンN「こうしてわたしは、結婚式当日を迎えたのだった」


○神殿・外観(日中)

○神殿・内部(アイリーンの結婚式の日)

   花嫁衣裳で歩くアイリーン。

   隣には父代わりのトーマス(アイリーンの叔父)の姿。


○神殿・祭壇手前

   花婿衣装のマーティ(18)が立っている。


○神殿・祭場内(アイリーンの結婚式の日)

   豪華な神殿内部。

   女神の像。

 

   アイリーンは、トーマスからマーティに渡される。

   嬉しそうな笑顔のコートニー。

   コートニーの魔法により神殿内に花が賑やかに舞い散る。

   驚く国王夫妻。

   得意げなコートニー。

   苦々しい表情を浮かべる叔父が自分の家族と合流する。

   苦々しい表情の叔父の妻とルシアの姿。

   嬉しそうに涙する執事の姿。

   楽しそうなマーティの騎士仲間たちは、揶揄うような視線をマーティへ向ける。

   アイリーンの近くに降った花を凍らせて風で躍らせるマーティ。


   アイリーンを睨んでいるルシアに、アダムがそっと近づいてささやく。


アダム「お嬢さま、今です」

ルシア「ええ」


   ルシアが神殿に貼られている魔法陣のひとつを消す。

   そこから魔法陣が音もなく静かに不気味にひとつずつ消えていく。


○神殿・祭場前

   神官の前で結婚の誓いを行うアイリーンとマーティ。

   ガシャンという大きな音。


神官「何事だ⁉」

参列者「魔物の襲撃だ!」


   神殿のステンドグラスを破って内部に侵入してくる複数の黒い影。

   身構える騎士たち。

   逃げ惑う参列者。

   嬉しそうに笑うルシア。

   ニヤリと笑うアダム。

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