第7話 はじめての二人旅

日が傾き始めた頃、二人は川辺へたどり着いた。

澄んだ水が石の間を流れ、夕日に照らされて金色に輝いている。

男は辺りを見回すと、平らな場所を見つけて荷物を下ろした。

「今日はここまでだ。」

少女は辺りを見渡す。

「宿はありません。」

「今日は野宿だ。」

「野宿……。」

その言葉を初めて聞いたように、小さく繰り返した。

男は笑う。

「屋根はないけど、空ならある。」

少女は空を見上げた。

夕焼けが山の向こうへゆっくり沈んでいく。

「贅沢ですね。」

思わず男は吹き出した。

「そう思う奴は初めて見た。」

二人で枯れ枝を集める。

男が火打石を打つ。

何度目かで火花が枯れ草へ移り、小さな炎が生まれた。

少女は目を丸くする。

「それだけで火が……。」

「昔からこうやる。」

少女は炎の前にしゃがみ込む。

揺れる橙色の光が、白い髪を優しく照らしていた。

「きれい。」

男は小鍋に水を入れ、乾燥野菜と干し肉を放り込む。

しばらくすると湯気が立ち始め、素朴な香りが辺りへ広がった。

少女は鼻をひくつかせる。

「この香りは何ですか。」

「腹が減る香りだ。」

「なるほど。」

真面目にうなずく少女を見て、男は思わず笑った。

木の椀へスープをよそう。

少女は恐る恐る口をつけた。

「……熱っ。」

慌てて椀を離す。

男は肩を震わせた。

「そんな勢いで飲む奴があるか。」

少女は少しだけ頬を赤くする。

「温度調整を忘れていました。」

「便利な身体だな。」

「便利ですが、不注意は防げません。」

二人は顔を見合わせ、同時に笑った。

食事を終える頃には、空はすっかり夜になっていた。

山には人工の灯りが一つもない。

代わりに、無数の星が空いっぱいに散りばめられていた。

少女は息を呑む。

「こんな星空……。」

その声は震えていた。

「見たことないか。」

「宇宙から星を見ることはあります。」

少女は空を見上げたまま答える。

「でも、地球から見る星は初めてです。」

男も空を見上げる。

「同じ星なのにな。」

「全然違います。」

少女は静かに笑う。

「宇宙では、星は景色です。」

少し間を置いて続けた。

「地球では、星が空に帰ってきます。」

男はその言葉を気に入った。

「いい表現だ。」

焚き火が静かにはぜる。

パチッ。

パチッ。

炎の音だけが夜へ溶けていく。

少女は焚き火を見つめながら呟いた。

「炎も初めてです。」

「さっき見ただろ。」

「近くで、こんなに長く見たのは初めて。」

炎は同じ形を保たない。

燃え、揺れ、消え、また生まれる。

少女はその変化を飽きることなく見つめていた。

「永遠じゃないんですね。」

男は薪を一本くべる。

「だから飽きない。」

少女は小さくうなずく。

「終わるから、美しい。」

その言葉に、男は静かに笑った。

「旅も同じかもしれんな。」

少女は頷く。

「はい。」

焚き火の向こうで視線が重なる。

まだ出会って二日。

それでも、不思議と長い時間を一緒に歩いてきたような気がした。

夜風が森を渡る。

焚き火は静かに燃え続ける。

その小さな炎は、誰もいなくなった世界で、二人だけの家のように温かかった。

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