第43話 イシリス様再び

 ブリュンヒルデが定住する様になって少したった頃


 ヴィットマンは悩んでいた。


 農地も広がって来ているがこの領地には特産物が無い事に気が付いてしまったのだ。


 ポルトには小麦が、シャハトにはマヨネーズとワインが、ナミブ領にはウイスキーとブランデー更に果物がある、ここには特に何も無かったのだ。


 長いことジャミール王国があった土地だが軍備増強しかしてこなかったので何も無い、兵が強くても国は富まないのである。


 武器開発が進んでいる訳でも無いので金属加工とかの技術も特に見るべき物は無い、飛空船は役立たずなので二度と作るつもりは無い。


 とりあえず大豆を作って農地化して貰っているが何度か収穫が終わって土が出来たら何かもっと儲かる作物を作りたいと思っているが、良いアイデアが浮かんでこない。


 魔物が出る森も無いので魔石の確保も大変だ。


 残念ながら旧ガルボ共和国も流通で儲けていたので特産物は無い。


 水が良ければエールとか作りたいが銘水が無い、それ以前にホップってこの世界にあるのだろうか?


 農地化を進めれば領民が食う分は自領で賄えるがそれだけでは豊かになって行かない、この作物ならヴィットマン辺境伯領産に限るって商品が欲しいのである。


 ヒントを求めて領地内の竜の巣沿いを魔動車で走ってみた、暇そうだったレギンとヒルダを乗せて走っている。

(これなら竜に襲われる事も無いだろう)


 ドワルグやナミブみたいに鉱山でも見つからないかと期待しているがそれほど上手くはいかないだろう。


 珍しい植物とかも探しているが今のところ何も無い、ヒルダなら何か知っているかと思ったがこの辺には珍しい物は特に無いと言っている。


 魔動車に乗るのが初めての二人だったが、だんだん飽きてきた様だ、車を停めてアイテムボックスからテーブルと椅子を出してお茶にした。


「ヒルダ、何かこの辺でしか取れない様な物ってないの?」


「我らは食べ物にこだわりが無いのでわざわざ採取したりせぬからのう、金属とかも別に気にした事が無いからわからぬのう。」


「レギンは特に思い当たらないよね?」

 念の為聴いてみた。


「そう言えば叔母上、竜の墓ってこの近くだと言っておりませなんだか?」


「そう言えば主の母御の亡骸がこの近くにあったの」


「じゃあ、お墓参りに行きますか?」


「お墓参りとはなんぞえ?」

 ドラゴンには墓参りと言う風習は無い様だ。


「竜達は亡くなった人を偲んで命日とかに訪問したりしないの?」

 一応聞いてみた。


「特にその様な事はせぬのう、魂はイシリス様の元に帰るから昇魂の儀式はするが、次に生まれる時は新たな肉体を授かるから亡骸は居住地から離れた所に安置してしまいじゃ、自然に土に帰るのが摂理じゃから人の様に墓を立てたりはせぬ。」


「ふーん、じゃレギンの母親ももう土に帰っているのかな?」


「30年は過ぎているから土に帰っておるじゃろう、骨とか鱗は残っておるがな。」


「骨とか鱗を持ち出したら竜の掟的に何か不味い事はあるの?」


「特に無い、野生動物や魔物が食べたりするのも自然の摂理じゃから特に気にしておらぬ。」


「レギン、とりあえず行ってみるかい?お母さんの鱗ぐらいは残っているかもしれないし、残っていたら持って帰ってお墓を作ってあげよう。」


「お墓はともかく行ってみたい。」


「じゃ、行ってみよう、ヒルダ道案内を頼んでも良いかい?」


「ここからじゃと道が無いから車では行けぬのう、我が背中に乗せてやろう。」

 と、服を脱ぎ始めた。


 お茶セットと魔動車をしまって人化を解いたヒルダによじ登った。


 改めて見るとやはりデカい、このクラスの竜は俺が倒すのは不可能だろう。


 ヒルダに乗って飛ぶ事数分、垂直に切りたった尾根を超えたところに竜の墓はあった、結構広大な台地が竜の骨や鱗で埋め尽くされている。


 特に気にする事無く竜の亡骸の上に降り立った。


 人化してレギンの母親を置いた辺りに案内してくれた。


「この辺りの白銀の鱗がそうであろう、持って帰るかえ?」


 レギンは無言で鱗を一枚手に取って撫でている。

「妾も成竜になったらこんな白銀の鱗になるかな?」

 と、にっこり笑って聞いてきた。


「そうじゃのう、我と同じぐらい美しい竜になるであろう。」


「そっか、それがわかって良かった」

 にっこり笑ってから

「母様、森に産んでくれたおかげでレギンは楽しく暮らしております、ありがとうございました。」

 と、祈りを捧げた。


 ヒルダは何か思うところがある様で涙ぐんでいたが無粋な質問はせずに知らないふりをした。


「ヒルダ、この竜の亡骸は俺にとっては宝の山なのだが持って帰って加工して売ったらダメだろうか?」


「こんな物何に使うのじゃ?好きなだけ持って帰るが良いぞ、レギンの母御以降亡くなった者はおらぬが、何千年も同じ場所に安置しておるから場所が無くて困っておったのじゃ。」


「最近亡くなった竜はお主が倒した者じゃ、あやつは竜の巣を出て好き勝手に死んだので昇魂の儀式も不要じゃ、亡骸はお主が処分してくれたのじゃろう、その辺に放置されて朽ちて行く姿を晒さずに済んだのが幸いじゃ。」


 レギンが手に取った鱗を別にして、その辺を鱗と骨をアイテムボックスに片っ端から突っ込んだ。


 一番新しい亡骸が30年前の物なので綺麗に骨と鱗になっていた。


 すっかり綺麗に片付いた台地を見て


「これで後千年のぐらいは場所を気にせずに安置出来るの。」

 と喜んでいた、人と違って竜は全く亡骸には興味がない様だ。


 長命だからいちいち気にしていたら大変なのだろう。

 って事でヴィットマンは宝の山を手に入れた。


 ドラゴンスケールで上手くすれば100年ぐらい食って行けるかもしれない。


 とりあえずポルトからドルジでも呼んでスケールアーマーでも作らせて売るとしよう。


 人化を解いたヒルダに乗って帰った、やはり飛んだ方が早いが飛空船は作る気にはならなかった。


 訓練場に降りて人化してもらった、竜が飛んでくるとブレイバーズの連中が集まってくる、きっと今晩のおかずにでもする気なのだろう。

(かわいそうだから全員に娼館をおごってやろう)


 服を着て貰って商会まで戻ってからレギンにお墓の件について聞いてみた。


 お墓は要らないという事なので、白銀の鱗をレギンに手渡した、部屋に飾って置く事にした様だ。


 首脳部の所に行って竜の鱗と骨を大量に入手した旨を話した、全員「ゴクッ」と唾を飲んだ。


 正直どれだけ儲かるのか分からない、これを元手に何か新たな商売を考えた方が良いかもしれない。


 みんなで慌ただしく晩御飯を食べて、騒がしく入浴してから子供たちを寝かしつける為それぞれ部屋に戻って行った。


 今日の当番はカレンとリリーの仲良しコンビだったが子供が小さくて手がかかるので、白竜ペアに交換した様で二人でやって来た。


 すっかりヒルダも慣れた様で三人でたっぷり楽しんでから布団を被って就寝した。


 久々に夢にイシリス様が現れた。

「イシリス様お久しぶりです、おかげで楽しく元気に生活しています。」


「ユウイチ君この間ぶり、古龍もお嫁さんに加わったのね、頑張っているみたいね。」


「一人で暮らしていたレギンレイヴと違ってブリュンヒルデは竜の常識が分かっているので色々勉強になります。」

「そう言えば竜達はイシリス様の事を知っているみたいです、他にはイシリス様を祀っている人達は居ないのですか?」

「出来る事ならもっともっと教会を増やしたいと思っています。」


「そう!教会の話をしにきたの、呪毒を清める為の教会だけどユウイチ君何か特別な事をした?」

「有り得ない速さで浄化されているんだけど、あの色の配置って何か意味があるの?」


「私が元居た世界では四聖獣と言って各方角を守る神獣が居たのでその色に合わせてみました。」


「そう言うのって世界に関係なく共通なのかしらね、私も初めて知ったわ、おかげで100年ぐらいかかると思っていた浄化がもうすぐ終わるわよ、終わったらあそこは逆に清浄な土地になるから何か考えて置いた方が良いわよ。」


「イシリス教の総本山とか作っても良いですか?」


「わたし的には要らないけど、土地が清浄過ぎると作物って育ちが悪くなるのよね、霊薬の類なら凄く育つからそういうのを育てたらいいんじゃない?」


「はい、これ」

 と言って小袋をくれた。


「霊草の種だよ、増えるまでユウイチ君が育てたら間違いないからよろしくね、あと三ヶ月ぐらいで浄化が終わるから、来年の春にでも蒔いたらいいよ。」


「いつもありがとうございます、与えてもらってばかりで申し訳ないです。」


「いいのよ、私は与える女神だからみんなが幸せに暮らしていれば満足なの、じゃまた!」


「今年も収穫祭は盛大にやりますから楽しみにしていてください。」


 イシリス様は帰っていった。


 ひょっとして俺の悩みは一気に全部解決したのでは?


「イシリス様いつも本当にありがとうございます。」

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