第5話 フローラの強さ
夜の城内の一室。
目の前にはあの時と同じように二人の女性がいる。
フローラ、そしてビアンカ。
「ずっと、聞けませんでした」
フローラが静かに口を開く。
「あなたが時々、遠くを見る理由、あなたが何を背負っているのか。」
「それが今日分かりました…」
フローラはビアンカを見る。
ビアンカはうつむく。
「ごめんなさい。」
その言葉に、フローラは首を横に振った。
「あなたが謝ることではありません。」
「あなたは母親として、あの子を守っていただけです。」
ビアンカは驚いた。
もっと責められると思っていた。
しかし、フローラの表情にあったのは、悲しみだった。
「なぜ、一人で抱えていたのですか」
「どうして私を信じてくれなかったのです。」
「私はあなたの妻です」
「世界を救う旅を共にした仲間です」
「あなたが苦しんでいるなら、一緒に背負いたかった」
何も言えなかった。
はじめて会った頃はただのお金持ちのお嬢様だと思っていた。
弱い女性だと思っていた。
はじめから間違っていたのだ。
天空の盾を守る家に生まれた女性。
運命を背負う覚悟をはじめから持っていた女性。
部屋の外から声がした。
「お父さん?」
「さっきから何の話をしているの?」
いつか話さなければならないと思っていた。
しかし、こんな形になるとは思わなかった。
「お前には……兄弟がいるんだ。」
「もう一人の天空の勇者だ。」
戦闘中とは違う、本来の幼さを感じさせる天空の勇者。
小さく笑った。
「そっか、戦っているのは僕だけじゃなかったんだ。」
「だったら、会ってみたいなぁ。」
その言葉に、ビアンカとフローラはお互いの顔を見合わせた。
涙がとまらず、何も言うことはできなかった。
もし二人の勇者が出会っていたら、この状況は変わっていたのだろうか?
しかし、その願いはもう叶わない。
残されたのは一人だけだった。
男は二人の子供の前で、すべてを話した。
「もう一度、冒険へ。もう一度、父さんに力を貸してくれ!」
2人は父親の必死さに思わず笑ってしまう。
「お父さん、何を言ってるの?そんな悪いやつがいるなら倒しに行かなきゃ。僕は天空の勇者なんだよ。」
「こらっ、お父さんが一生懸命お話しているのに、笑っちゃダメでしょ。でもお父さんも悪いよね。そんなのわたしたちに任せてよ。」
ビアンカとフローラは思わず吹き出してしまう。
「そんな、笑うことないだろう。お父さんだって…立場ってものがあるんだから。」
天空の勇者である息子、天空の勇者ではないが、天才的な魔法の力を持つ娘。
こんなにもたのもしい家族がいる。
そして、どちらか一人しか選べなかったはずの二人がいる。
なにも恐れることはない。
「ビアンカさんは僕が守ってあげるからね。僕いつかビアンカさんと結婚するんだ。えへへ。」
息子の急なカミングアウトにビアンカは目を丸くした。
彼の父親、あの頃のあの人と同じ目をしている。
「こんなおばさんだけど、お願いしますね。勇者様。」
ビアンカは頬にキスをして、笑顔を見せた。
ミルドラースを倒した天空の勇者パーティにビアンカが加わった。
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