第6話 最愛の勇者

エスタークの眠る洞窟。

もう一人の天空の勇者の小さな墓がある。

そこにはビアンカとその最愛の息子が使っていたものが置いてあった。


「お父さん、モーニングスターより強そうなのがあるよ。破壊の鉄球って感じだよ。」

「お母さん、これすごいわ。バイキルトが全員にかかるドラム?こんなの反則じゃない(笑)」


ビアンカは息子が作った道具を褒められて親バカが発動している。

「うちの子は、こういうのを作るのが得意でね。すごいんだから。」


最後に残った一つ、光の盾を見て、表情がかたくなる。

「これはあなたが使って。あの子もきっと喜ぶわ。」

それは男が唯一贈ったプレゼントであり、最後までビアンカを守った存在だった。

「もちろんだ、この盾ほど強いものなんてないよ。」


エスタークが眠る最奥部までの長い道のりを歩きだす。

ビアンカは驚きと喜びにあふれていた。


敵は強いが、あの時とは違う。

頼もしい仲間がいる。

そしてずっと大好きだった、ずっと隣で歩いていたかったあの人がいる。


そしてようやくたどり着いた最奥部。

巨大な身体。

2本の巨大な剣。

威圧的な禍々しいオーラ。


近づくと、エスタークはしずかに目を覚ました。

ビアンカの姿を確認して、笑い出す。

「また来たのか。お前の力ではわたしを満足させることはできないとまだわからないのか。愚かな…」


男は敵意をあらわにして呟く。

「お前がエスタークだな、俺の息子をよくも。」

エスタークは静かに答えた。

「息子?なるほど」

「あの小さな少年、お前が、あの勇者の父親か。」

「よく覚えているぞ、あれほど強い意志を持った者は、久しく見ていない。」


エスタークは深く息を吸い、淡々と語った。

「最後まで逃げなかった、母親を守るために立ち向かってきた。」

「最後まで立派な勇者だった。」


相手の強さを認めていた?

エスタークとはなんなんだ、完全な悪ではないのか?

かつての勇者たちと同じような思いを抱き、同じように戦闘ははじまった。

ビアンカは息子のことを思い出しながら小さく祈りを捧げた。


熾烈な戦いになるはずだった。

ミルドラースを倒した勇者たちの力はビアンカの想像を超えるものだった。

ただ腕っぷしが強いだけではない。

攻撃だけではない、敵からの攻撃をやわらげ、全員が全員を支えあう戦い。


特にブレス攻撃をやわらげる効果が高い。

「こんな魔法をわたしも使えていたら…」

ビアンカはかつての戦いを思い出し、集中しきれない様子だった。


ビアンカとその息子だけでは、傷一つ付けられなかったエスターク。

それが、少しずつではあるがエスタークを弱らせている。


ビアンカも自身の最大の魔法メラゾーマで応戦する。

フローラもまた同じくメラゾーマの詠唱をはじめる。

フローラのメラゾーマは山彦となってこだまする!


「フッ、フローラさん? 今のはいったい?」

びっくりしたビアンカの顔を見て、フローラに思わず笑みがこぼれる。

「ふふふ、ビアンカさん、これは魔法使いの最高のアイテムの特殊効果ですわ。今度貸してさしあげます。」


ビアンカは唖然とした。

天空の勇者たちの圧倒的な力。

これが世界を救った英雄たち、天空の勇者たちの力。


もちろんこちらもダメージは負っている。

余裕があるわけではない。

光の盾も役に立っている。


「わたしは息子の力を信じきれていなかったのかもしれない。」

「あの子はもっと戦える子だったのかもしれない。」


ビアンカは感じていた。

子供だから守られる、そうじゃなかった。

世界を救う、その願いを共有する対等な仲間。

それが家族の絆だったのかもしれない。


その時、天空の勇者が最前に立ち、大きな声で叫んだ。

「そろそろ、とどめを刺そうかな。この魔法はミルドラースでも驚いていたからね。」

「ギガデイーン!!!」


ビアンカに嫌な記憶が呼び戻される。

天空の勇者が使う最強の魔法。

「ダメ!その魔法はエスタークには!」


間に合わなかった。

やはりエスタークには全く効いていない。

「そんなぁ、これが効かないやつがいるなんて。でもこれだけじゃないからね。」


娘が戦いのドラムを打ち鳴らし、天空の剣へと力が注ぎ込まれる。

会心の一撃!

エスタークの腕が一本切り落とされた。


「すごい、これが本物の天空の勇者なの!」

ビアンカは思わず大声で叫んだ。

それを聞き、フローラは否定する。


「そんなことはありませんわ。腕を切り落とすことが勇者の証ではありません。」

「あなたは今生きている、あなたの勇者様も本物の勇者です。」

フローラがあの人の選んだ人で本当によかった。

ビアンカはフローラを見て、少し悲しそうに笑った。


そして父親の威厳を見せなければと男は愛娘に指示を出す。

「マヒャドをこの杖へと送り込んでくれ、こいつはどうやらヒャド系に弱いらしい。」

待ってましたとばかりに、父の持つドラゴンの杖へと魔力を送り込む。


そして再び繰り出される会心の一撃。

エスタークの2本目の腕は重く鈍い音とともに崩れ落ちた。


「ビアンカさん、とどめです。これを!」

フローラから手渡されたのは破壊の鉄球だった。


「えっ、フローラさん、わたしは破壊の鉄球なんて。」

フローラは笑いながらこう言った。

「ビアンカさんならきっと大丈夫です。昔はお転婆だったって主人から聞いていますわ。」


そうは言っても、屈強な戦士が使いそうなこんな武器を使えるはずがなかった。

しかし手渡された武器を持った時に、不思議な感覚があった。

声が聞こえる。


「お母さん、天空の勇者のみんなはすごいよ。僕もいっしょに戦いたかったなぁ。」

「僕たちも負けていられないね。さぁ武器を持って。大丈夫、僕が守るから。」


その時、ビアンカにエスタークの口から最後の力を振り絞るかのように強烈なブレスが放たれる。

灼熱の炎だった。

それは、息子の命を奪った、ビアンカがいちばん見たくないもの。


ビアンカの右腕に力が宿る。

それはもう一人の天空の勇者が起こした最後の奇跡。

ビアンカの手から放たれた鉄球。

遠心力が起こす轟音とともに炎を引き裂き、エスタークの脳天を吹き飛ばした!


エスタークは何かを言おうとしていたようだが、聞き取れなかった。

「この…たしが…、…ターンで……」

エスタークはマグマの海へと沈んでいった。

もう眠りから覚めることはないだろう。



歴史に残ったのは、世界を救った天空の勇者。

天空の勇者と肩を並べるほどの魔法の天才であるその妹。

しかし彼らにはもう一人、兄弟がいたことは知られていない。


彼もまた天空の勇者だったのか。

ただ、世界には天空の勇者は一人しかいないと言われている。


だが彼が天空の勇者かどうかは関係のないことだったのかもしれない。

ただ、母を守り続けた勇者であったことにかわりはない。

それは伝説などではない、たしかにそこにいた。

隣に立てなくなった、その時でさえ母の力となった最愛の勇者。


終わり



ー後日譚ー


すべてが終わった夜。

「ありがとう。フローラ、君がいてくれたから。」

フローラが微笑みながら答えた。

「あなたを支える妻でいられたことを、私は誇りに思っています。」


「ただし……ひとつだけ確認しておきたいことがあります。」

「あらたまって、なんだい?」


「ビアンカさんとの間に2人めの子供ができるようなことはありませんよね?」

「……」

「あなたは世界を救った英雄です。でも私は、あなたの妻ですから。」

「英雄だからといって、何でも許されるわけではありません、わかりますよね?」

「……」

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