第4話 凱旋できなかった勇者
エビルマウンテン。
ミルドラースは正史の天空の勇者たちによって倒された。
かつては奴隷として教団にこき使われていた男。
天へと旅立った父と母の願いを叶え、そして息子は天空の勇者としての使命を果たした。
長い戦いを終わらせ、世界を覆っていた闇を消し去った英雄。
英雄たちの凱旋。
ずっと隣にはフローラがいてくれた。
まだ幼いながらも頼りになる最愛の子供たち。
魔王亡き世界の平和、これ以上ない幸せなものだと男は感じていた。
その宴の中。
男はずっと一人の女性を探していた。
ビアンカ。
彼女ならすぐに飛んできて、いっしょに喜んでくれると思っていた。
上から目線でからかってくると思っていた。
そんな彼女がどこにもいない。
ある老人からこんな話を聞くことができた。
「あぁ、ビアンカさんなら、エビルマウンテンのほうに息子さんと出かけていましたなぁ。」
「少しでも役に立ちたいから、なんて言ってましたよ。本当に良い娘さんじゃ。」
嫌な予感がした。
魔王との戦いが終わった今、行く理由などない場所だった。
すぐにルーラで山のふもとまで飛ぶ。
そこに彼女はいた。
いつも明るく元気なビアンカ。
魔物なんて怖がりもしない強い女性。
いつまでも年上のお姉さんだった。
それでも彼女は年相応の華奢な体をした女性。
膝をつき祈る姿は、さらに小さく見えた。
小さな墓があった。
「……ビアンカ、どうしてこんなところに?」
「これは、墓?」
そこには箱がひとつ置かれていた。
見たこともないものがものがある。
その底で、光の盾がにぶい光を放っていた
「まさか、この盾は!あの子に何かあったのか!?」
男の息が一瞬止まる。
ビアンカはその言葉を聞き、涙があふれた。
「何かあった?あったわ…、わたしたちもあなたの役に立とうとここへきて。」
「そしてここに洞窟があることを知ったの。」
よく見ると、茂みに隠された洞窟の入口があった。
「こんなところに洞窟、全然気づかなかった…」
「それになんだ、この禍々しい気配は。ミルドラースなどとは比べ物にならない。」
男の声は震えている。
「お父さんが世界を救うなら、自分も何かしたいってあの子が。」
「ここに来た時わたしも気づかなかった。でもあの子だけは感じていた。この気配を。」
「あの子には幼い時から不思議な力があった。悪を感じる力、天空の勇者の力なんでしょうね。」
「ここを見つけられなかったあなたたちを責める気はないの。でも二人で行くなんてバカなことをしなければあの子は…」
子供の頃にも見せなかった大粒の涙だった。
後から追ってきたフローラが現れた。
彼女はすべてを聞いて理解していた。
その様子は裏切られたという怒りではなかった。
「……あなたも、母親だったのですね。」
ビアンカはその言葉に静かに顔を上げる。
「私たちが愛した人の子は、同じ天空の勇者だった。」
フローラの目から涙が落ちた。
「ごめんなさい、私は知らなかった。」
「この世界にもう一人、天空の勇者がいたなんて。」
「あなたにこんな運命を背負わせていたなんて。」
男はなにも言えなかった。
元はといえば自分が蒔いた種だった。
それなのに二人の運命はこうも違うものになってしまった。
「ビアンカ、この洞窟には何がいる?」
男は力強い口調で聞き、ビアンカは強いまなざしで返した。
「エスターク、巨大な2本の剣を持つ巨人よ!」
エスタークを倒す。
ミルドラース以外の世界の脅威なのかはわからない。
一人の父親として、そして男として。
もう一人の息子が最後まで貫いたこと。
ビアンカを守ること。
「お願いします、仇を、あの子の仇をとって。わたしの力ではどうにも…」
フローラはビアンカを抱きしめ、強く言った。
「ビアンカさん、あなたは決して弱くなんてない。あなたもいっしょに行きましょう。わたしたちを信じて。」
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