第3話 誰も知らない戦い
ミルドラースとの決戦が近づいていた。
天空の勇者の一行は、世界を救うため最後の戦いへ向かっていた。
後に誰もが知ることとなった英雄の物語。
遠く離れた山村で、もう一人の勇者もまた動き出そうとしていた。
「ねえ、お母さん」
「父さんたちは、もうすぐ魔王と戦うんだよね?」
ビアンカはうなずいた。
「ええ、きっと勝って世界を救ってくれるわ。」
その言葉を聞いて、目を輝かせながら木剣を握りしめる少年。
「僕たちにもできることがあるんじゃないかな」
「できること?」
「父さんたちは世界を救うために戦ってる」
「僕も天空の勇者なんでしょう?僕にもできることがあると思う」
その言葉を聞いた時、ビアンカは幼い頃を思い出した。
正義感が強くて。
困っている人を放っておけなくて。
危険な場所にも迷わず向かう。
やっぱり、この子はあの人の子なのだ。
その日から親子2人の旅がはじまった。
目的は、エビルマウンテン周辺の調査だった。
そこは魔王の本拠地。
まだ知られていない危険が残っているかもしれない。
いきなりそんなところで戦えるはずもない。
とは言え、何の準備もしていなかったわけではなかった。
勇者たちへの手助けになると思って用意したものがたくさんあった。
しかしビアンカは知らなかった。
天空の勇者の血を。
子供の強さではない。
ビアンカはいつも戦闘後は頭をなでて喜んでいる。
「なかなかやるじゃない。」
子供の頃にした冒険と同じだった。
自分のほうが弱いのに、年上のお姉さんの立場でいたいからと頭を撫でていた。
今思うと恥ずかしいものだった。
そして二人は、偶然その場所を見つけた。
地図にはない、名前もない洞窟。
中から強大な魔物の気配があふれていた。
「魔王の居城よりも強い魔物たち、どういうことなの?」
「こんなところがあるなんてグランバニアの報告書にはなかった。」
洞窟の奥には何かがいる、だがそれはミルドラースではない。
二人は知らなかった。
ここが、古代の帝王が眠る場所だということを。
洞窟を進んでいくと、マグマがあふれ出す地獄のような世界が広がっていた。
そこにいる巨大な遺物。
禍々しい気配を発していた元凶。
「誰だ…わが眠りをさまたげるものは?」
「わが名はエスターク、今はそれしか思い出せぬ…」
エスタークは目覚めた。
エスタークが善なるものなのか、悪なるものなのか。
それはわからない。
ただこちらの殺気を感じたのか、エスタークはその巨大な剣を振り下ろす。
戦いははじまった。
その攻撃は重く、光の盾をもってしても防ぎきれるものではなかった。
「近接戦は危険よ。魔法中心でいきましょう。」
ビアンカは鞭から杖へと持ちかえる。
「メラゾーマ!」
ビアンカ最大の攻撃呪文メラゾーマが放たれる。
エスタークは笑っている。
「なるほど、なかなかやるようだな…」
エスタークは大きな口をあけた。
このマグマがあふれる空間を凍りつかせるほどの冷気。
つめたく輝く息。
メラゾーマはかき消されビアンカの下半身が凍り付いた。
「お母さん!……エスタークよくもお母さんを!こうなったら奥の手だ!」
それは天空の勇者のみが使えるという最強の魔法。
雷雲が一気に立ちこめ光が集まっていく。
「ギガデイン!!!」
轟音とともに放たれる勇者の力。
「すっ、すごい、ギガデイン…、この子は本物の天空の勇者だわ!」
ビアンカははじめて見るギガデインの力、天空の勇者の力、いやわが子の力に感動した。
「これならきっと!」
だが、その思いは届かなかった。
エスタークは依然として笑っている。
「ギガデインを使えるとは…、だが残念だったな。わたしにはギガデインは効かぬ。ただ眠りを妨げるだけの騒音に過ぎない。」
「そんな…、ギガデインが効かない?僕の最強の魔法なのに…」
愕然とする少年を無視するかのように、ビアンカへと強大な力が襲い掛かる。
灼熱の炎。
マグマさえも溶かすような熱エネルギーだった。
ビアンカは死を覚悟した。
「天空の勇者でもかなわない、そんなものにわたしなんかが勝てるはずもなかった。ごめんなさい…」
ビアンカは静かに目を閉じた、その瞬間。
ビアンカの前に盾を構えた小さな背中があった。
「お母さんは……、僕が守る」
ビアンカは理解した。
この子は誰にも認められないかもしれない、でも天空の勇者だと。
そして、母を守る優しい息子なのだと。
そして、戦いは突然幕を下ろす。
エスタークは剣を下ろし、ビアンカに静かに告げた。
そこには戦いの意思は感じられなかった。
「……興が冷めた。お前たちでは、わが眠りを妨げるには足りぬ。」
エスタークは再び眠りについた。
ビアンカは一歩、また一歩と洞窟の出口へ向かって歩き出した。
洞窟には静寂が戻った。
エスタークの力は強大すぎた。
地上へなんとか戻ったビアンカ。
涙をとめることができなかった。
最後まで守ってくれた最愛の勇者は息絶えたまま、背負われていた。
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