第36話 確認

朝。

さくらが出社すると、

さくやはすでに席にいた。


「おはよう。」


「……おはようございます。」


返事はいつも通り。


ただ、

少しだけ声が低い。


さくやはコーヒーを一口飲んで、

ぼんやりと画面を見ていた。


昨日までなら、

気にも留めなかったと思う。


でも。

朝は弱い。

そう聞いてから見ると、

確かにそう見えた。


「眠そうだね。」


「眠いです。」


さくやが即答する。


「朝、ほんと弱いんだ。」


「言ったじゃないですか。」


「私に言ったわけじゃないでしょ。」


「あ、聞いてたんですね。」


「聞こえただけ。」


「じゃあ忘れてください。」


「もう覚えた。」


「最悪だ。」


さくやが笑う。

さくらも笑った。

本当だった。


昼休み。

さくやがコンビニから戻ってきた。

机の上に昼食と小さなプリンを置く。


さくらは、

それを見ていた。


甘いものが好き。


それも、

本当だった。


別の日にはチョコレート。

その次は、

誰かにもらった菓子を嬉しそうに食べていた。


意識して探しているわけではない。


ただ、

一度知ると目につく。


そして、

目につくたびに思う。

やっぱり。

________________________________________

週明け。

昼休みに、

主任がさくやへ声をかけた。

「映画どうだった?」


「あ、面白かったですよ。」


「一人で?」


「一人です。」


「ほんと好きだねえ。」


「一人の方が集中できるんですよ。」


そう言って、

さくやは笑った。

さくらは少し離れた席で、

その会話を聞いていた。


土曜日。

映画。

一人で行く。


それも、

本当だった。



どれも、

さくや本人が隠していたことではない。

誰にでも話している。


見ようと思えば、

誰にでも見える。


だから、

何もおかしくない。



ただ。


知ってから見ると、分かることが増えた。


朝のコーヒー。

休憩中の甘いもの。

休日の映画。


バラバラだった行動に、

理由がつく。

それが、

少し面白かった。


夕方。

さくらは仕事をしながら、

ふとさくやの方を見た。

同僚と何かを話して、

笑っている。


その机の端には、

食べかけのチョコレート。


少し前までなら、

ただの景色だった。


今は違う。


見れば、分かることがある。

聞けば、知ることがある。


そして、知ったことは、

少しずつ繋がっていく。


さくらは画面へ目を戻した。


『彼のことを前より分かるようになってきたかも。』


そう思うと、

少しだけ嬉しかった。

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