第3話 部活紹介
昨日、入学式が行われた。新入生は110人らしい。新入生を遠目から見たら、制服が新品でシワひとつなく、ぴかぴかしてみえた。
みんな緊張してそう。不安まじりの表情の子もいた。でも、希望や期待を持ってこの中学に入ったのかな。
わたしも一年生の頃を思い出していた。
入学当初、不安が強かったわたし。勉強についていけるか、友達はできるか、うまくいくか……。
そして今日。もうすぐ、新入生歓迎会の部活紹介コーナーがはじまる。
最初はサッカー部。各々のドリブルやヘディングのテクニックを披露して、会場が湧いていた。わたしも、思わず固唾をのんで見入ってしまった。
バスケ部も、部員がシュートを連続で決めて、盛り上がっていた。運動部の部活紹介って、毎年盛り上がるんだよね……!
でも、文化部も負けてない。書道部がパフォーマンスしたり。美術部がライブペイントしたり、大会出場の実績を紹介したり。吹奏楽部も聞き入る演奏をして、わたしはタジタジになる。
え、ちょっと待って……手芸部、存在感、薄いかも!? わたしの血の気がひいていくのを感じた。
いや、そんなことない。わたしたちの作品は、どれもきれいだし、可愛いし、素敵なものばかりだ。わたしったら、失礼なことを考えてしまった。
わたしたちが作ったものを、わたしたちは魅力的に発表すればいい。
「吹奏楽部のみなさん、ありがとうございました。次は手芸部の紹介です」
わたしは三人とも壇上にあがることにした。少ないけれど、手芸部に入ってくれる人が必ずいるはず。三人で頷いて、説明をはじめた。
「はじめまして、わたしたちは手芸部です。部室A棟の奥の部室で、平日の水曜以外は活動を行っています。兼部もしやすく、勉強の両立もしやすいです」
わたしはちょっと間を置く。すると、下田くんはコットン糸で編んだバッグを強く掲げた。ストールも。わたしも、両手でポーチを抱きかかえる。上田さんも、ラミネートしたビーズリングのA4写真をかかげる。ちなみに今も、ビーズリングを指にはめてみせている。そのビーズリングは、いつもよりキラキラしてみえた。
「わたしたちは、編み物や刺しゅう、ビーズ、縫い物、羊毛フェルト、レジンなど、色々な手芸を和気あいあいと行っています。手芸を教え合ったり、見せ合ったりしています。みなさんが手芸部に来てくれることを、楽しみに待っています!」
先頭の列の生徒たちは、おお、すごい、きれい、あんなの作れるんだ、とささやいていた。
その言葉をを聞けただけでも、とても嬉しかった。
「――手芸部のみなさん、ありがとうございました」
放送部の声が流れて、わたしたちはすすすっと捌けていく。
「うまくできた……かしらね」上野さんはメガネをくいっと持ち上げて言った。
「もう既にやりきったすよ、おれたち」
「そうだね。魅力はアピールできたかも。」私たち手芸部は、体育館の端でぼそぼそささやくように話をした。
新入部員、来るといいな。そんな淡い期待を胸にわたしたちは頷いた。
と、その時、
壇上を見ると製菓部が部活を紹介していた。───そういえば先週手芸部に遊びに来た佐久くんも、製菓部だったっけ。
「私たち製菓部は、週2回、お菓子を作る活動をしています。地元のマルシェでも作ったお菓子を販売しています。調理や製菓の腕が磨かれるので、調理系の進路に進みたい人にもおすすめです。最近はマドレーヌやシフォンケーキをつくりました!男子女子関係なく、入部お待ちしています。」
製菓部の部長が大きな写真を見せると、美味しそう、いいなー、すごい! という声があがっていた。あの写真のマドレーヌ、たしかに美味しそう。匂いまで伝わってくるようだ。
そうして部活紹介は終わり、新入生歓迎会は閉会した。今日の放課後から、体験入部期間がはじまる。
───どれも魅力的な部活だったな。でも、わたしたちの手芸部だって負けてないよ!
と、思っていた。
放課後の、部活動までは。
「体験入部の子たち、来ないね……」
「……そうですね。でも部長、まだ一日目ですよ!」
「他の部活に体験入部してる可能性もあるっすね」
「……そ、そうだよね。ま、今日はいつもみたいに手芸しよっか!」
「たしかに。楽しむ姿を見せるのが一番ですし」
「いつか来るでしょ」
「そうだよね! 今日はかんたんな刺繍コースターをつくろうかな! 四葉のクローバー柄で、縁かがり縫いをこの黄緑で......」
「わあ、かわいいです! わたしもビーズのアクセサリー、量産しますよ!」
「おれもあみぐるみ作りまくろ」
ちくちく、コツコツ、あみあみ。
…….今日の門限まで、誰も来なかった.....。
「いやでも、まだまだ日にちはあるし」
わたしはまるで自分に言い聞かせるように、つぶやいた。刺繍完成のスピードは早かった。
……。
…………
水曜日は部活が休みなので、木曜日に期待していた。今日こそは来るはず。
でも.......。
「来ないね」
「.......そっすね」
「その......」上野さんが、目を伏せる。
「わたし!部活ポスターコーナーを見てる一年生に何人か声掛けて、手芸部はどう? って言ったの。その中には手芸が興味ある子もわりといたんです。編み物とか、レジンとか。でも、その子たち.......」上野さんのメガネが鈍い光を放っているようにみえた。「部活ではなく趣味でやる方が良さそう......っていう意見でした。家ではできないことを部活に選びたい子が多いみたいで」
「まあそれも一理あるっすね......」
空をふと見ると、穏やかな空にひとつ薄暗い雲がいくつか浮かんでいた。
そして、金曜日。わたしたちはだんまりしていた。
人が、来ないのだ。
いつものようにわたしは刺しゅうをするが、今日の進みは遅かった。絵柄のウサギがなんだか悲しそうな顔に見えた。
静かな空間、わたしは顔を曇らせる。
「........あ、あのさ、ふたりとも……ごめん」
「ちょっ、部長、謝ることない───」下田くんの言葉に、わたしは被せて続ける。
「あの、みんな……。廃部になったら他の部活に今からでも入ってほしいな。わたしが不甲斐ないせいでこんな形になって、ほんとうにごめん……」
わたしの目が潤んだ。涙を我慢する。
「違います! 部長のせいじゃないですよ!」ふたりはおろおろしている。ふたりをそうさせているのは、まぎれもなく自分で────。
「うん、みんな悪くないっすから」
「そうですよ! 廃部になっても、レンタルスペースやカフェで毎週、手芸しましょうよ! わたしたちがたまにやってる、作業通話みたいにやるやつもいいし。わたし、廃部になっても諦めませんから!」いつも楽しそうな上野さんの語気がちょっぴり強かった。
「上野さん.....」
と、その時。
「えっ!? ここ、廃部しちゃうんですか!?」
わたしたちが誰でも来やすいように開けていた扉の向こうで、聞き覚えのある可愛い声が聞こえた。────以前お菓子を渡しに来てくれた、佐久一吾くんだった。
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