第2話 部員集め作戦会議

 わたしはふたりに、廃部の危機があることを伝えた。

 すると、下田くんはすっ、と立ち上がって、「新入部員、なんとしても集めなきゃっすね」と言った。彼の栗色の猫っ毛が、日差しにあたって光って見えた。

「ほんとよね、下田くん。わたしも全力で集めるわ。――部長。いつか廃部の危機が来るかもとは思ってました。……だから、今までいろんな方法を模索していたんです。……それを実行するときが来たみたいです」上野さんの目は、眼鏡越しにきりっとして見えた。

「ふたりとも……ありがとう」

 わたしは思わず、目頭が熱くなった。そうだ。わたしは手芸部の部長だ。――ここで落ち込んでてどうするんだ! 後輩が頑張ろうとしてくれているのに。わたしはキッと前を向く。

「わたしたちにできることは新入生歓迎会の部活紹介で部活の説明したり、ポスターを描いたり、だよね。あとは……無理やりではない程度の勧誘、とか」

「そうっすよね。じゃあ、どれも一生懸命やりましょっか」

「一番大事なのは、やっぱり部活紹介ですよね。手芸部の活動や雰囲気、作ったものや完成品を見せたり……」

 上野さんは指折りしつつ、じっくりと考え込む。

「毎年、体育館で行われるんですよね? じゃあ遠くから見てもわかりやすいように大きい手芸作品もいるかも……」

「そうっすよね、力作と、あとは目立つ大きい作品とかも持っていきましょうか。あみぐるみと、大きめの編み物作品もっていきます。バッグとか帽子とか」

「いいわね! 今編み物って流行ってるものね。そこもアピールしていきましょ。わたしはビーズ作品の力作、たくさん持っていくわ。……小さい作品だけど、もっていかないよりマシよね!」

 部員集め作戦会議は、とどまるところをしらない。

「ありがとう、ふたりとも。わたしも刺しゅうポーチとかペンケースとかもってくね。……ところで、ふたりは手芸部に入ろうと思った決め手はなに?」

「おれは……もとから編み物が好きだったからですね。だから最初から入ろうと思ってました」

「わたしも、手芸が学校の部活でもできるなんて素敵! と思ったからです!」

「だよね。わたしも。でも手芸好きな子はもちろん、手芸に興味持ち始めた子も入りやすいようにしたいよね。そうやって、手芸人口を増やしていきたいな」

「そうっすね」ふたりは強く頷いた。

 その後も、作戦会議は続く。ポスターにはイラストではなく、完成作品写真を載せようとか。兼部可能、勉強との両立も可能! という言葉を載せよう、とか。

 わたしたちは、紹介の文章やポスター案をいくつか出し合うと……。

「あ、もうすぐ門限ですね」

 上野さんが掛け時計に目をやり、ちょっとびっくりしたような顔をした。「こんなに経ってたのね」

「はやいっすね……明日に持ち越しですね」下田くんも猫のように伸びをして、ふう、と深呼吸する。

「そうだね、ふたりとも。力になってくれてありがとう」わたしはぺこりと頭を下げる。

 すると上野さんと下田くんは、何言ってるんですか! と言いたげな顔をした。

「当然ですよ! だってこの部活大好きですもん」

「右に同じくっす」

「……みんな……」

 わたしは、自分が涙目になったのに気づく。

 このふたりのためにも、絶対手芸部を守ってみせる! わたしはそう決意した。


 その時だった。

 手芸部の扉をノックしながら、「すみませんー」というかわいい声が聞こえた。

「え? あ、どうぞ」わたしが言うと、そのドアはゆっくりと開いた。

 そこにいたのは、萌え袖、ミルクティー色のふわふわした髪、小さい背丈の――

「あ、さっきのハンカチの――」

「はい、さっきハンカチを拾ってもらった、二年の佐久一吾(さくいちご)です。お礼が言いたくて、あの人誰だろうって他の人に尋ねたら、手芸部の麦田いとさんだよって教えてくれて……だから、来ました」

 上野さんたちと、同じ学年。二人はこの子のこと、知ってるのかな、と思いチラッと目をやると、なにやら顔を見合わせて困ったような、複雑な顔をしていた。

 え……? なんでだろう。


「あの、お礼といってはなんですけどっ、麦田先輩に渡したいものがあって来ましたっ。上野さんと下田くんも、よければ食べてください!」

 佐久くんがわたし、下田くん、上野さんに渡したもの。それは、小さなラッピング袋。中に入っていたのは、クッキーだった。ココア味だろうか、茶色の見た目だ。

「お礼なんて大丈夫だったのに……でも、ありがと。お腹空いてたから、今食べるねー。」

 ラッピング袋を慎重に開けて、ココアクッキーを取り出し、口に運んだ。

 その味は――。

「え、美味しい! お菓子屋さんの味だ! え、これどこで買ったの?」わたしは興奮気味に言った。

 ココアクッキー。いい香りがして、さくさくとした食感もよくて…。味も、濃厚なココア味で、夕食前といえども、いくつも食べたくなるほどだ。

「ほんとですか? ありがとうございますっ。ぼくが作りました! ぼく、製菓部なんで」佐久くんは、顔をほころばせた。

「え、自分で!? すごい!」

 ひとつずつ、口に運んでゆっくり食べていくわたし。

 こんなに美味しいクッキー、中学生でもつくれるんだ!  製菓部の部員になったら、こういう美味しいものを作れるものなの?

 ……と、隣でさくさくとクッキーを食べる音がきこえた。「あ、うまいっす。紅茶飲みたくなりますねー」

「ちょっと下田くん……まあ確かに美味しいけど!」と、二人も食べていた。

 佐久くんは、「上野さんも下田くんも、ありがとうございます!」ふふっと笑った。

「じゃ、じゃあぼく、そろそろ失礼します……! 今日は本当にありがとうございました」

 佐久くんは、たたっと小走りで、ひとりで帰っていった。

「いえいえ、じゃあねー」

 謎のお菓子もぐもぐタイムがはじまる。作戦会議で疲れて脳が甘い物を欲してたのか、すごく美味しく感じる。すると、小声で、上野さんは口を開いた。

「……ねえ下田くん。佐久一吾くんって、あの――」

とその時、門限のチャイムが鳴った。

「あ、もう帰らなきゃ」わたし達は帰る支度をはじめた。

上野さんたちも、机にだしてた紙や手芸道具を片付ける。

「じゃあね、ふたりとも。今日はありがとね」

 みんなに手を振ると、ふたりはいつものようにお開きの挨拶をした。

「あ、はい。お疲れ様っした」

「あ……お疲れ様でした、部長」


 外に出た。空はほんのり暗く、まだまだカーディガンが必要な肌寒さ。そんな春の帰り道に。わたしはこれから手芸部がうまくいくように願ったのだった。

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