エピローグ
——二年後、十二月二十五日。
「涼太、朝だよ」
「ん……おはようございます」
カーテンがシャッと開かれ、眩しさで眉間に皺がよる。
欠伸をしてぐっと体を伸ばすと、肌寒さにぶるりと震えた。
ダイニングのテーブルには、水色のホットプレートとBLTサンド、コーヒーが並んでいる。
「「いただきます」」
「今日は遅番だった?」
「うん。明日休みだから、前に言ってた清澄白河のコーヒーの焙煎所行きます?」
「いいね、そうしよう」
「あ、今日缶の日だ。家出る時に一緒に持っていきますね」
「じゃあ玄関にまとめておくね」
部屋の壁には、二人で考えたやりたいことリストが貼られている。
二年の間に増えたり減ったりしたリストは、きっとこれからも続いていくのだろう。
玄関で靴を履き、「行ってきます」と言いながら振り返ると、環さんは口を尖らせて「何か忘れてない?」と言った。
「え?なんだろ。スマホ持った、財布持った、ハンカチティッシュある……」
あ、目に見えてしょぼくれた。
八百歳の妖狐なのに、仕方がない人だな。
俺は背伸びをして、環さんにキスをした。
「忘れ物、これでしょ……って、苦しい!」
全力を込めた暑苦しい抱擁に呻いていると、耳元で溶けそうな甘い声で囁かれる。
「明日は休みだから、いっぱいできるね」
「あ、朝っぱらから何言ってるんですか!」
頬をすり寄せられ、首筋に一つキスを落とされた。
「今日の夜ごはんは涼太の好きなマカロニグラタンだよ」
「やった。帰りにチキン取りに行きますね。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
やりたいことリスト。
石垣島に行く、は昨年の夏に叶ったから、済。
次は北海道に行って海鮮丼が食べたい。そのうち計画する。
老後は海辺の家で暮らしたい。そのためにもしっかり働いて貯金しなきゃ。
……実はまだリストにはいれていないことが、一つある。
俺の鞄の中には、まだ未記入のパートナーシップ制度の申請書がひっそりと眠っている。
近いうちに、お揃いの指輪が欲しいとリストに追加しようか。
言ったらリストにいれるまでもなく、その足で買いに連れて行かれそうだけど。
想像したらおかしくなって、マフラーの下の口元がふっ、と緩んだ。
「あ、雪だ……ホワイトクリスマスだな」
曇り空から雪の花が降ってくる。
帰る頃には、街を白く染めているだろうか。
積もれば子どもたちは大喜びで園庭に駆けだすだろう。
鼻先がツンと冷えるのを感じながら、保育園までの道のりを歩いた。
今日帰ったら、なんて言おう。
「結婚してください」
「一生そばにいてください」
「家族になろう」
今日が終わるまでまだ時間はあるから、もう少しだけ悩もうか。
もう環さんを一人にしない。
幸せになるための旅路を共に歩いていくと、俺の一生をかけて誓うんだ。
保育園の門をくぐり、「おはようございます!」と元気よく挨拶をした。
前世で殺した親友と、今世では家族になる。
それが、今の俺が選んだ答え。
答え合わせは、またいつか。
二人で正解にしていくんだ。
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