第10話 神様からのプレゼント
保育園での休憩時間。
園長の猿渡先生、服部先生と職員室で昼食を囲む。
「桃園先生偉いねぇ、自分でお弁当作ってるの」
「あ、でも前の日の残り物ばっかですよ」
猿渡先生はつぶらな瞳でタッパを覗き込んだ。
「お料理ちゃんとやってるんだ。うちの息子に爪の垢呑ませたいわぁ」
「最近の若い子は、って言うのもあれですけど、料理できる男子多いですよね」
「俺は実家が大家族だったので、必然的に。でも凝ったものは作れないですよ」
他愛もない雑談をしながら食事をしている最中に、俺は何気なく二人に問いかけた。
「あの、お二人は前世……とかって、信じますか?」
「「前世?」」
先生たちは、ぱちくりと瞬きをした。
「あ、なんか漫画とかアニメとかであるじゃないですか。前世の記憶がある日突然蘇るとか!そういう人たちはなんのために前世を思い出すのかなぁって」
「そりゃあ、主人公だからでしょ」
「あたし、占いで前世は戦国武将って言われたことあるわよ」
「園長先生、戦国武将!?強そう」
「お金払ってるんだから、ヨーロッパのお姫様とかにしてくれればいいのにねぇ」
園長はお茶を飲みながら目尻をシワだらけにして笑っていた。
「なんだっけ、なんで前世を思い出すのか、よね?」
「そりゃあ、前世にとてつもない体験をしているとか、壮絶な恨みや心残りがあるとか?」
壮絶な恨みや心残り、と聞いて心臓が握りつぶされたように苦しくなる。鼓動が早く打ち付けるのを落ち着かせるように、お茶をぐいっと飲み干した。
「私は嫌だな。前世の記憶は今の自分のものではない訳でしょ?それに縛られたり振り回されたりするのは困るよ。前世の自分がなんとかしろよって感じ」
その言葉が真っ直ぐ突き刺さるナイフのようだ。服部先生は言葉の攻撃力が高い。
(いや、でも確かにそうだよな!前世の自分とはいえ、紫水の罪を俺が背負う必要は……)
心が摘まれたような痛みを感じていると、猿渡先生は穏やかな口調で「あたしはねぇ」と切り出した。
「あたしは、神様からのプレゼントだと思うわ。今度は間違えないようにねっていう、神様からの贈り物。人はみんな宿題を持って生まれてくるって言うでしょ?魂を磨く宿題」
「魂を磨く宿題……?」
聞き返すと、園長は笑って頷いた。
「今世で起きる障害は、前の生でやり残した宿題なの。それをちゃんと終わらせるために同じ問題が用意されてるってわけ。前世の記憶は、問題を解くためのヒント」
「なんだか深いですね」
「どっかのお寺のお坊さんの説法よ」
(宿題を終わらせるための、ヒントか……)
箸を握る指に力を込めて、残りの弁当をかき込んだ。
紫水は、何か俺に伝えたいことがあるのだろうか。御影を殺してしまったことを後悔して、心残りがあって、それをどうにかして欲しくて来世の自分に託したんだろうか。
♢♢♢
「ただいま」
「お帰りなさい」
俺が「ただいま」と言って、皐月さんが「おかえり」と言うこの挨拶も、見慣れたスカイツリーと同じように日常に溶けていく。
「皐月さん、今日はそば飯にしましょ」
俺の人生の宿題。
答え合わせは、いつ出来るんだろう。
今はまだ分からないけれど——皐月さんが幸せになれるよう、今日も俺は飯を作る。
あの頃叶えられなかった約束を、生まれ変わった俺たちが叶えられたなら。
紫水も、御影も、ようやく浮かばれるのかもしれないと思うから。
「あ、皐月さんの好きなものってなんですか?」
「好きなもの……いなり寿司ですかね」
それがあまりにも妖狐だった御影にマッチした好物で、俺は笑いを堪えきれなかった。
御影が好きだったものは、今はもう思い出せない。
でも、今の皐月さんが好きなものは、これから知っていける。
少しだけ自分の中で、選びたいものが分かったような気がした。
「なんで笑ってるんですか」
「いや……すみませ……ふふふ、今度作りますね」
冷飯とソース、豚肉、キャベツ、人参。
袋麺を取り出し、順に炒めていく。
甘辛くてスパイシーな匂いが腹の虫を刺激する。仕上げに鰹節と青のり、マヨネーズをかけて完成だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
「そういえば聞いてなかったですけど、皐月さんってなんの仕事してるんですか?在宅なんですよね」
「……」
スプーンを持った手がぴたりと止まる。
あれ?返事がない。
在宅の仕事って言ってたけど、実は無職?
「引きません?」
「き、聞いてみないと分かんないんですけど……法に触れるようなことじゃなければ」
神妙な顔つきになる皐月さんの次の言葉を身構えて待つ。
「……不動産の家賃収入と、株とかの投資、あとはその他諸々で、生活に困らない程度の貯蓄はあります」
「へー!凄いですね!なんだ、改まった感じでいうから闇バイトとかそっち系だと思ったじゃないですか!」
てっきりもっと突拍子もない回答がくると思った俺は、安心してそば飯をモリモリ頬張った。
「だから、会社で働いたりしたことはなくて」
「そうなんですね。え、それで俺が引くと思ったんです?」
「……いい年して働いたこともないのかって思われるのが怖くて」
彼は時折こうして不安気な顔をする。
そんな風に思わなくたっていいのに。
スプーンを握る手に僅かに力が入る。
「大丈夫ですよ、働かなくても収入があるって凄いことだし、そうなるために努力したんですよね?俺、株とかよく分かんないですけど、それも利益出すためには勉強必要だろうし。なんにも負目感じることないですよ。今は一人でなんでも出来ちゃう時代ですから!働いてる方が偉い、とかはないですよ」
俺は皐月さんの皿にそば飯をドンっと追加した。
「ほら、いっぱい食べてくださいね」
彼は何度か瞬きをしてそば飯を見つめ、そして嬉しそうにはにかんだ顔を見せた。
前世の宿題がなんなのか、俺にはよく分からない。
でも、年上なのにどこか迷子の子どものような寂しさを抱えたこの人に、たくさん美味しい飯を作って食べさせてあげたい。
なんだか、そんな風に思ってしまったんだ。
ここまで拝読頂きありがとうございます!本作品はナツガタリBL部門に参加しています。
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前世や涼太と皐月の関係がどうなるのか!!(о´∀`о)ドキドキしながら続きを読んでもらえれば嬉しいです!
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