第5話 この生活は地雷付です
皐月さんが夢だと思ってるのは、間違いなく前世の記憶の一部だろう。
まだ完全には記憶が戻っていないのかもしれない。
(流石に記憶があるんだったら、自分を殺した相手を目の前にして飯なんか食えないよな……もしかして、実は既に記憶が戻っていて復讐を考えている……なんて展開あり得る?)
頭の中で多岐にわたる可能性を考えていると、彼は少し侘しい顔をした。
「僕、思っているより浮かれてるのかもしれないです。友達とご飯食べるの、憧れてたので」
「そういう経験、無かったですか……?」
「昔からあまり人付き合いが得意ではなくて。いつの間にか相手を怒らせてしまったり不愉快にさせたりして、学生時代はずっとぼっち飯だったんですよ」
ぼっち飯。目の前の物腰柔らかで人当たりの良さそうな皐月さんからは想像できなくて、俺は目を丸くした。
「だから、もし気付かないうちに不愉快な思いをさせていたら、きちんと言ってくださいね」
「いや、大丈夫ですよ!俺割と雑な扱い受けても平気なんで!……それに、俺もこうやって友達と飯ゆっくり食うのあんま経験なかったんで、楽しいですよ」
すると彼は頬を緩め、嬉しそうに笑みを溢した。
「嬉しいな、夢が叶いました」
「夢?」
「はい。……友達ができたらやりたいことリストがあって。その中の一つに、一緒にご飯を食べる、があったので、叶ってしまいました」
「……他には、どんなやりたいことがあるんですか?」
皐月さんは一瞬戸惑いを見せたが、キッチンカウンターに置いていた茶色い手帳を手に取り、俺に渡してくれた。
「見てもいいですか?」
彼がしっかり頷いたのを確認して、手帳を開いた。ぱらぱらとめくると、その中の一ページが目に留まる。
【やりたいことリスト】
そこには「一緒にご飯を食べる」「遊園地に行く」「サッカーをする」という、たわいもない、普通の人間なら誰でも経験しているようなささやかな願いが箇条書きに書かれていた。
「昔から書き溜めていて。笑っちゃいますよね」
彼の乾いた笑い声と、丁寧に綴られた文字を見て、胸が苦しくなった。
どんな気持ちで、このリストを作ったんだろう。
学生時代に一人ぽつんと食事をする皐月さんを想像して、鼻の奥がツンと痛くなる。
「やりましょう、これ全部」
「え?」
「やりたかったことやりましょう、俺と一緒に!」
前世俺が殺してしまった親友の生まれ変わりである皐月さんが、隣人だった。
きっとこれは運命だ。
神様が、俺に前世を償うチャンスをくれたのかもしれない。
「本当に、いいの?」
「もちろんですよ。だって俺たちもう一緒に飯食ったんだから、友達じゃないですか」
彼の瞳が震えている。
朝露に濡れた桔梗の花みたいだ。
そんな柄にもなく詩的な言葉を紡ぐほど、皐月さんの瞳は吸い込まれそうに綺麗だった。
♢♢♢
その日は生活に必要なものを買い足しに、商業施設に足を運んだ。
布団を購入し、自分の部屋から無事だった荷物を回収すれば、どうにか暮らしていけそうなほどには整った。
雑貨屋の前を通り過ぎた時、皐月さんが小さく「あ」と声を上げた。
「桃園くん、鬼」
「へぇっ!?」
「……の柄の湯飲み。可愛いね」
「ソ、ソウデスネ……」
過剰反応してしまい、バクバクと早鐘のように打ち付ける胸を抑えてひっそりとため息をついた。
(共同生活は案外うまくやっていけそうだ……皐月さんの前世の記憶が戻らなければ!)
今は優しいけど、俺の前世が紫水だとばれたらほのぼの同居生活から一気に復讐サスペンスになりかねない。
だってそういうの漫画でよくあるじゃん?今更ながら、後悔が津波のように押し寄せて来た。
(これ結構危ない橋なんじゃないか……?なんで俺一緒に住むなんか言っちゃったんだろう)
一緒に過ごす時間が長ければ、記憶を取り戻すきっかけになってしまうかもしれない。やっぱり同居はできないって言った方がいい。
俺は意を決して話を切り出した。
「さ、皐月さん。俺、やっぱり……」
「僕、桃園くんに出会えてよかったです。これからもよろしくお願いします」
一点の穢れもない清らかな瞳と、菩薩のようなほわほわした微笑みが向けられる。
俺の中のオカンスイッチがかちりと入った音がした。
「こちらこそよろしくお願いします!!」
(駄目だ、俺にはできない!やっぱり出て行きますだなんて言ったら、この人泣きそうだもん!)
年上なのに、なぜか庇護欲を掻き立てられる。
こうして俺と皐月さんの、一つ屋根の下での共同生活が始まった。
前世の記憶は絶対にバレてはいけないという、特大の地雷付きで。
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これからも涼太と皐月の二人の生活を見届けて頂ければ嬉しいです!!
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