『SIDE A:第一章』#05 "発覚"
小さなライブハウス。
対バンイベント。
出演者は四組。
蒼唯(あおい)が通う音楽専門学校のツテで、急遽参加できなくなったバンドの代わり、での出演。
自分たちはトップバッター。
持ち時間は約15分。
演奏できるのは二曲か三曲だった。
−−−−−
テンポの良い♫SIGN@L
そして、
ちょっとロックテイストの♫Art of Destiny
バラードのEchoes of the Way Homeは悩んだ末、今回は見送った。
「なんか…いける気がする」
美咲(みさき)は根拠のない自信を感じていた。
まりみも、蒼唯も、そして物静かな涼歌(すずか)も。
−−−−−
演奏は悪くなかった。
ほぼ思ったとおり、ミスらしいミスもなく、「淡々と」終わった。
そう、淡々と。
パチパチパチ…
拍手は温かいものの、どこか遠い。
何か違うものを感じる。
…あ、そうか、
この人たち…
本命はこの後に出る人気バンド目当てなんだ…
そして、次のメンバーに入れ替わる。
ワァァァっ!!!
フロアの熱量が一気に上がる。
歓声。
掛け声。
物販の列。
盛り上がり。
待ってました、と言わんばかりの状況。
ライブハウス全体が…揺れている。
−−−−−
そのハッキリした違いが、
四人の胸に静かに刺さった。
−−−−−
楽屋。
誰も大きな声を出さない。
美咲が呟いた。
「……なんか悔しい」
「やっぱりドラム打ち込みだからかな…」
まりみが返す。
蒼唯がすかさず、
「いや…そういう問題じゃないと思う。」
「……何かが…まだ…」
涼歌が消え入りそうな声で言う。
−−−−−
沈黙。
倉橋(プロデューサー)も何も言わない。
黙っていた。
ひとつのキッカケを掴むのを待っていた。
彼女たちなら、必ず。
−−−−−
片付けを終え、機材をまとめる。
シンセケース。
ギター。
ベース。
みんな俯いていた。
そして無言のまま、ライブハウスから外へ出た。
夜風が少し冷たい。
誰も、まだ今日のことを言葉にできなかった。
−−−−−
その時。
出口の近くで、
高校生くらいの女の子二人が、
何やらそわそわしていた。
「あっ…」
「いた…」
「どうする?」
「話しかける?」
「いや無理無理!」
「でもせっかく…」
−−−−−
美咲が気付く。
「ん?」
−−−−−
「あっ!」
「す、すみません!」
「ライブ、とってもよかったです!」
−−−−−
四人。
「ありがとうございます😊」
少しだけ笑顔。
−−−−−
そして。
女子高生の一人が、
まりみを見て固まった。
「ん?」
「……似てる。」
もう一人も目を丸くする。
「えっ?」
「もしかして…」
「朝のお天気のお姉さん!?」
−−−−−
「あ…バレちゃった?てへ…」
「やっぱりー!」
「私、毎朝見てます!」
「ファンなんです!」
「お天気コーナー大好き!」
−−−−−
「ありがとう」
「えーっ、バンドやるお天気お姉さん!」
「かっこよくない?!」
まりみは照れた表情を浮かべている。
−−−−−
「この前、しぐえこ(Echoes of SIGN@Lの略)、テレビ出てたじゃないですか!」
「なんか気になって!」
「曲も好きで!」
「今日は友達連れてきたんです!」
−−−−−
「Art of Destiny、かっこよかったです!」
「友達にも広めます!」
「またライブ行きます!」
「頑張ってください!」
−−−−−
深々と頭を下げる二人。
走り去る後ろ姿。
四人はしばらく、その背中を見送っていた。
−−−−−
静寂。
−−−−−
美咲がポツンと
「まりみー…」
「ファンいたね。」
蒼唯も続けた。
「……二人、かわいい」
涼歌が少し微笑む。
「『またライブ行きます』だって…」
まりみが言った。
−−−−−
さっきまで胸に残っていた悔しさが、ほんの少しだけ軽くなっていた。
その変わっていく心境を、倉橋は後方でしっかりと見定めた。
うん、少しずつ…響いてきてるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます