『SIDE A:第一章』#04 "素顔"
朝の札幌。
まだ空気の冷たさが少し残る時間。
「おはようございます♪」
鼎(かなえ)まりみは、カメラの向こうに笑顔を向けていた。
「今日は一日晴れそうですよ〜♪」
北海道ローカル局。
朝のお天気コーナー。
鮮やかな天気図を背に、スタッフの「OKでーす!」の声が響いた。
そして収録が終わると、
「お疲れさまでしたー!」
いつもの元気な挨拶。
しかし控室に戻るなり、
「昨日のフィルター、ちょっと削ろうかな…」
スマートフォンにはシンセサイザーの画面。
気象データから、今度は音のパラメータへ。
「うーん…ここかなぁ…」
本人は至って真面目だった。
−−−−−
同じ頃。
市内のフォトスタジオ。
「はい、すごくいいですね!」
スタッフの声に、
「ありがとうございます♪」
結城美咲(ゆうきみさき)が微笑む。
モデルの仕事。
ライト。
メイク。
カメラ。
大勢のスタッフ。
華やかな世界。
撮影の合間。
椅子に腰掛けた美咲は、
そっとイヤホンを耳につける。
流れてくるのは、昨日のリハーサル音源。
「ここ、好きなんだよね💕」
誰にも聞こえない小さな声。
その目は、モデルではなく、ギタリストの顔をしていた。
−−−−−
昼下がり。
市内の音楽専門学校。
「じゃあ、次はベースだけで。」
「はい。」
白坂蒼唯(しらさかあおい)は静かに頷く。
レコーディング実習。
機材。
ミキサー。
学生たちの賑やかな声。
「蒼唯さん、上手ですね!」
「ありがとう。」
少しだけ微笑む。
帰り道。
夕焼けが綺麗だった。
思わずスマートフォンを向ける。
写真を一枚。
投稿。
数十分後。
いいねの通知。
「また空?」
美咲からメッセージが届く。
蒼唯は少し笑った。
「うん。空。」
−−−−−
そして。
大学の構内。
静かな講義室。
黒髪を揺らしながら、蔡涼歌(さいすずか)はノートを取っていた。
休み時間。
図書館。
イヤホンから流れるのは、デモ音源。
小さなスケッチブックには、描きかけの漫画。
「……余白。」
誰に言うでもなく、呟く。
音も。
絵も。
人生も。
全部、余白があるから好きだった。
−−−−−
夕方。
四人のスマートフォンに通知が届く。
美咲
『みんなお疲れ〜💕』
まりみ
『仕事終わった!』
蒼唯
『学校終わったよ。』
涼歌
『……終わった。』
美咲
『明日リハだね♪』
まりみ
『新しい音色持っていく!』
蒼唯
『しっかり刻むよー。楽しみ。』
涼歌
『……楽しみ。』
−−−−−
それぞれ違う場所。
違う景色。
違う毎日。
それでも。
明日になれば、
四人はまた同じ場所で音を重ねる。
それが特別なことだとは、
まだ誰も気付いていなかった。
⸻
そして翌日。
リハーサル。
急遽決まったライブイベントへの出演を控え、四人はスタジオに集まっていた。
四人にとって、初めての――
対バンイベントだった。
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