『SIDE A:第一章』#03 "共鳴"

リハーサルを終える頃には、札幌の空はすっかり夜になっていた。


「お疲れさまー!」


美咲(みさき)が両手を上げながら伸びをする。


「お腹すいたぁ~」


まりみがショルダーシンセのケースを抱え直しながら笑った。


「今日はちょっと飲みたい気分かも」


蒼唯(あおい)の一言に、美咲がすぐ反応する。


「行こ行こ!」


そして涼歌(すずか)も、少しだけ口元を緩めた。


「……ティラミスある店。」


四人は顔を見合わせて笑った。


−−−−−


地下鉄の駅へ向かう途中、

女子高生の集団のうちの一人がこちらを指差していた。


「えっ…もしかしてテレビ効果?すごくない?」


まりみは目を輝かせている。


「そうだといいけど…自意識過剰になっちゃダメ」


蒼唯は至って冷静だった。


事実、あの女子高生が指差していたのは、まりみ達のはるか後ろ、とある韓国グループの男の子の写真だった…


−−−−−


札幌駅近くのイタリアンバル。


木目調の落ち着いた店内。


半個室のソファ席。


音楽の話をするにはちょうどいい、心地よい賑やかさだった。


「すてきなお店^_^」


「かんぱーい♪」


グラスが小さな音を立てる。


「ポテトきたぁ~♪」


まりみが目を輝かせる。


「まだ来てないよ」


蒼唯が笑う。


「来る気配がする!」


「なにそれ~」


美咲が吹き出した。


他愛もない話が続く。


−−−−−


最近買った服。


新しいエフェクター。


蒼唯が撮った夕焼け。


涼歌の漫画。


美咲の自撮り。


実はそれぞれインスタをやっている。


「この前の写真、ちょっと伸びたんだ~」


「夕焼け?」


蒼唯が聞く。


「違う違う!」


美咲は照れたように笑う。


「自撮り!」


「また美咲ちゃんバズってるー」


まりみが笑う。


「……美人。」


涼歌がぽつりと言った。


「もう~」


美咲が頬を赤くする。


「涼歌ちゃんの漫画好きだよ」


蒼唯が言う。


「……ありがとう。」


「自分なんて機材しか投稿してないもん」


まりみが肩をすくめる。


「それがまりみらしいじゃん」


美咲が笑う。


−−−−−


「次のライブ楽しみだね」


「新しい音色入れてみようかな」


「ベースもちょっと変えてみる」


「……余白増やしたい。」


涼歌の言葉に、三人がうなずいた。


しばらく沈黙。


誰も気まずく感じない静かな時間。


蒼唯がふっと微笑む。


「最近、なんか楽しいよね。」


「うん」


美咲が答える。


「うん」


まりみも頷く。


「……楽しい。」


涼歌も小さく笑った。


美咲がグラスをくるくる回しながら言う。


「倉橋(プロデューサー)さんのおかげもあるかな。」


「うん。」


まりみが頷く。


「なんか、自分と同じ匂いするんだよね~」


「機材の?」


蒼唯が笑う。


「そう、そっち系かな🤣」


「失敗した話も普通にしてくれるよね」


「それ!」


美咲が身を乗り出した。


「音色間違えて崩れかけたけど」


「……否定しない。」


涼歌が静かに言う。


「そうそう」


美咲も頷く。


「『こうしろ』じゃなくて、『どう思う?』って聞いてくれる。」


「『みんなで作ろう』ってよく言うよね。」


少しだけ。


本当に少しだけ。


そんな話になった。


「まこてぃさん、新曲考えてるみたい」

蒼唯が言う。


「またきっと、蒼唯の心に突き刺さるんじゃない?」

まりみがニコニコしながら続ける。


「うん…きっと、いい曲…」

蒼唯は少し感慨深げだった。


「なんか、そういうのも含めて、これからも、この先も…」

美咲の言葉にみんなが頷く。


「あの学校祭から…ここまで続いてるし」


まりみ。


「……うん。」


涼歌。


「出会えてよかった。」


美咲の言葉に、


「よかった。」


蒼唯が微笑む。


「シンセにやらせればいいって言ってよかった🤣」


まりみの一言。


ホントだねー

救世主に見えたよー

あはははははー


全員が明るい笑いに包まれた。


その時だった。


珍しく、一番静かな涼歌が先にグラスを持ち上げた。


「……これからも。」


三人が顔を上げる。


「うん!」


美咲。


「いっぱい。」


蒼唯。


「楽しんでいこう!」


まりみ。


四つのグラスが、静かな音を立てた。


カン――。


まだ誰も知らない。


この夜が。


後に「しぐえこの転換点の一つ」と呼ばれることを。


−−−−−


そして。


この時、倉橋はまだ知らなかった。


自分のいない場所で。


四人が、こんな風に集まっていたことを。


「へいらっしゃい!」


おやっさん、ビールに串盛り合わせ、タレで。

あとニンニクも。


「あいよ!」


さぁ今日も頑張った。

明日は良いフレーズ浮かべばいいな。

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