『SIDE C:泰平編 ー 少し得した時間(翌日編)』
焼き鳥屋でちょっと得した気分になった泰平は、次の日に函館の家に電話した。
相手はもちろん長男だ。
高二。
サッカー部。
昔はコンサドーレのスクールにも通った。
でも今は熱狂的浦和レッズファン。
何回か一緒に埼玉スタジアムにも行った。
中学卒業旅行。
「一人で行ってみるか?」
そう言って送り出したら、
何事もなく、一人で埼スタにたどり着いてしまった。
それ以来、
すっかり一人遠征に慣れてしまった。
⸻
「今日さぁ、焼き鳥屋でお天気のお姉さん見たぞ」
「え?」
「バンドやってる人」
「まじ!?」
「まじ」
「写真撮った?」
「撮るか🤣」
「父さん偉い」
「当たり前だ」
「今度ライブ行こうかなぁ」
「おぉ」
「でも俺、来月埼スタあるからなぁ」
「また一人か?」
「もう慣れた^_^」
「そうか」
⸻
電話を切ったあと。
泰平は少しだけ思う。
(大きくなったなぁ)
(昔はコンサのスクールで走り回ってたのになぁ)
(もう一人で埼玉まで行くんだから)
テレビではスポーツニュース。
そしてスマホには、
長男から送られてきた埼スタの写真。
(今度帰ったら、また一緒に見に行くか)
そんなことを思いながら、
缶ビールを開けるのであった。
すると。
スポーツニュースが終わり、
画面がテレビ局前に切り替わった。
「続いて、あすの天気です」
「おっ」
何気なく顔を上げる。
画面には、
街角から中継するお天気お姉さん。
「あの子だっ!」
「しかもかわいい!」
泰平、思わずまた電話。
「おーい」
「父さん?」
「テレビ見てるか?」
「見てない」
「今、お前の言ってたお天気のお姉さん出てるぞ」
「え!?まじ!?」
「まじ」
「かわいいよなぁ」
「うん、かわいいな」
「バンドもやってるんだって」
「そうそう!」
「ライブ行こうかなぁ」
「お、いいじゃん」
「でも来月埼スタ行くからなぁ」
「また一人か?」
「もう慣れた^_^」
「そうか」
……
あれ。
さっきと同じやりとりだ。
まぁいいか。
かわいいな長男よ。
泰平はひとり笑った。
⸻
そしてテレビの中。
まりみ
「明日の道南地方は、午後から晴れるでしょう♪」
ポッ
ポッポッ
ポツポツ…
「傘ぁは、いっちおぅ…いるでしょうっ!」
一瞬、変なアクセントになった。
まりみの目が泳ぐ。
「あっ」
という顔。
泰平は吹き出した。
「またやってしまった…」
そう。
あの時の放送。
見事に、
「NG大賞グランプリ」
だったのである。
テレビの向こうで赤面するお天気お姉さん。
電話の向こうで笑う長男。
そして缶ビール片手に笑う五十一歳の父。
「頑張れよ、お天気のお姉さん」
「頑張れよ、長男」
「父さんも頑張るか」
窓の外には、
札幌の穏やかな夜。
そしてどこかで、
あの四人も笑っているのだろう。
あの楽しそうな声が聞こえてきそうな気がして、
泰平はもう一本、
缶ビールを開けるのであった。
休みの日サイコー。
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