『SIDE A:第一章』#12 "宝物"
数日後。
いつものスタジオ。
「おはよー!」
「暑いですねぇ」
「今日アイス食べたい♪」
「……眠い」
いつものように始まる、いつもの空気。
−−−−−
リハーサル前。
何やらバッグの中をゴソゴソしていたまりみが、
「ねぇ、まこっち(倉橋)」
と目をキラキラさせて顔を上げた。
「この前、まこっちにLINEしたじゃないですか」
「昔の曲いっぱいあるって」
「あれから探してみたんです」
「そしたら、高校生の時のUSBメモリ出てきました」
「え?高校生の?」
美咲が食いつく。
蒼唯「すごーい!」
涼歌「……見つかったんですね」
−−−−−
まりみは少し照れながら笑う。
「誰にも聴かせてないの」
「途中で止まったのもあるし」
「鼻歌だけ録音したのもあるし」
「GarageBandで途中まで作って放置したのもあるし」
「フォルダの中ぐちゃぐちゃ」
「でもね」
「題名とか、自分の字で書いてるの」
「作った時のこと思い出しちゃったりして」
「なんか、捨てられなくて」
−−−−−
その言葉に、倉橋(プロデューサー)は小さく笑った。
「それ…聞けるんじゃない?」
まりみ
「え?」
「残ってるなら、聞ける。聞いてみたい」
まりみ
「いやいやいや!」
「そんな簡単に言いますけど!」
「恥ずかしいし!」
「途中で終わってるのいっぱいありますよ!?」
「鼻歌だけのもありますよ!?」
「コードしかないのもありますよ!?」
倉橋
「それでいいじゃない^_^」
まりみ
「え?」
倉橋
「途中でもいい」
「鼻歌でもいい」
「音は逃げないから」
−−−−−
スタジオが少し静かになる。
そして。
「自分もMD派だったから^_^」
一同。
「え?」
「聞けるんですか?」
「MDですよ?」
「録音モードとか大丈夫なんですか?」
倉橋は少し得意そうに笑った。
「聞けるよ^_^」
「カセットテープもあるけどね」
−−−−−
一瞬。
空気が止まる。
美咲「カセット?」
蒼唯「逆に新しい!」
涼歌「……すごい」
そして。
まりみの目が、みるみる潤んでいく。
「うわぁぁぁん」
倉橋
「また泣いたぁ」
まりみ
「だってぇぇぇ」
「誰にも聴かせない曲とか」
「途中で止まった曲とか」
「タイトル付けて大事に残してるとか」
「そういうの……」
「一人だけかと思ってたんだもん」
「同じ人いたぁぁぁ。うわぁぁぁん」
美咲が笑う。
「まりみ、また泣いてる」
蒼唯も笑う。
「好きだなぁ、その泣き方♪」
涼歌も少し微笑む。
「……よかったですね」
倉橋は苦笑する。
「なんでそんなに泣いちゃうんだよー」
−−−−−
嬉しかった。
誰にも聴かせなかった音。
途中で止まった音。
忘れてしまったと思っていた音。
それらは消えてなんかいなかった。
ずっと待っていた。
再び鳴る、その日を。
時代は違う。
使う機械も違う。
MD。
カセットテープ。
スマホ。
USBメモリ。
でも。
一人で音を作る楽しさは。
思い描いたメロディが形になる喜びは。
あの頃も、今も。
少しも変わっていなかった。
そして。
また新しい音が生まれていく。
彼女たちの「音」を響かせるために。
彼女たちの「音」を届けるために。
⸻
Echoes of SIGN@L
SIDE A ― 第一章 完 ―
誰にも聴かせなかった音は、
消えてなんかいなかった。
−−−−−
第一章はこれにて終了です。
読んでいただきありがとうございました。
さて、第二章では、Echoes of SIGN@Lの結成に焦点を当てます。
彼女たちが音楽を始めたきっかけを描くので、時間軸が彼女たちの高校生時代に変わります。
引き続きお付き合いくださいね。
makoty2016
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