『SIDE C:泰平編 ー 少し得した時間』
テレビではナイター中継。
札幌へ単身赴任中の泰平、五十一歳。
函館には妻と、高校二年の長男、中学三年の次男。
今日は同僚と焼き鳥屋。
ここのつくねが本当にうまい。
日本酒片手に野球観戦……
スワローズ、いいぞ!
泰平は根っからのスワローズファンである。
−−−−−
盛り上がってきた。そうだ。
プロ野球選手しりとりの時間だ!
「いくよ、みんな。いつもの」
「お!いくか?」
「待ってました!」
「じゃぁ、僕から行きます。
いまテレビに映ってるから…長岡!」
係長から始まった。
「片平!」
課長が得意げに言う。
「晋作っスか、渋いっ」
「おっ、『ら』だな」
泰平、すぐさま。
「ラミレス」
「おおっ!意外と最近」
係長がニヤニヤしながら。
「スミス」
「どのスミスだよ」
「昔いたんだよ!巨人に」
すると課長。
「杉浦!」
「いぇーい、『ら』!」
「おいっ!」
泰平が机を叩く。
「杉浦は使うなよ!」
「ヤクルトファンには忘れられないんだぞ!」
「日本シリーズ、さよなら満塁ホームラン!」
「テレビの前で泣きまくったんだから!」
「しょうがないなぁ…」
日本酒をひとくち。
ぐびり。いきますよ…
「羅本。」
「……え?ラモス?」
「違うわ!ら、も、と」
「誰?でも泰平が言うならアリか」
微妙な空気。
「まぁ、いいか。『と』だな」
係長。
「外崎(とのさき)。」
「お、いいね」
すると課長。
「北村!」
「また『ら』だな!」
「『ら』!」
「『ら』!」
「『らーらー』うるさい」
泰平、ニヤリ。
「ふっ。」
「いくよ…」
「乱橋(らんばし)、しかも旭川出身」
※注 泰平、ラミレス→羅本→乱橋…と見事にスワローズ繋がりである。
……
課長も係長も口をポカンとしている。
「……」
「本当にいるのか?」
「いるよ!」
「選手名鑑みやがれコラーッ!」
再度スマホで調べる係長。
「あ、本当にいた。」
「いたのかよ!」
「だから言ったろ!」
泰平、絶好調。
「ライトル!」
「古い!」
「ランス!」
「広島!」
「ラロッカ!」
「おぉ!」
「ランゲラック!」
「それサッカーだろ!」
大爆笑。
−−−−−
「いやぁ、それにしても今日の試合、展開いまいちだなぁ…」
右後ろにあるテレビでは、スワローズがまた打たれていた。
ため息をつき、前を向いて体勢を戻そうとしたとき、ふと背中側の半個室が目に入った。
普通そうな男がいた。メガネを掛けてなんとなくイケメン。
そして……
「ん?」
「かわいい姉ちゃんが四人?」
「どういうこと?」
もう一度見る。
「あれ?」
「おや?」
「ん?」
一人、見覚えがある。
ツインテール。
「あっ!」
「あのお天気のお姉さんじゃないか!?」
…そうだ。
街角で天気予報をやってる。
SNSで見た。
確か、バンドをやっていたよな。
前にテレビで演奏してた…
「も、もしかして…」
(俺ってラッキー?)
五十一歳。
管理職。
喜び方も控えめだ。
勝手に撮影しない。
それはいけない。
でも。
ちょっと嬉しい。
そういえば。
長男、高校二年サッカー部。
昨日の夜のLINEで、
「父さん、あのお天気のお姉さん、いつか見かけるかもよ!」
って言ってたな。
へへへ。
今度自慢してやろう。
−−−−−
すると個室から笑い声。
「なんでまりみが泣くんだよ」
「同じ人いたぁ…」
「……つくね冷める」
「いやそれは関係ない」
内容はさっぱり分からない。
泣く人とつくねと笑い声と。
なんか昔の曲のタイトルみたいだな。
でも。
なんだか楽しそうだ。
泰平は日本酒をひとくち飲む。
(若いっていいなぁ)
(いや、俺もまだ五十一だ)
「おい泰平!」
課長が笑う。
「次、『く』だぞ!」
「『く』?」
「久慈!」
「早っ!」
店内には、
野球選手しりとりで盛り上がるおじさん達の笑い声と、
後ろの半個室から聞こえる五人の笑い声。
二つの宴会が、
焼き鳥の煙の中で、
なんだか心地よく混ざり合っていた。
そして泰平は、
「今度、長男に自慢してやろう」
と、少しだけ得した時間を過ごしている嬉しさで、もう一杯日本酒を注文するのであった。
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