第15話 海の向こうの大地
新しい大地に足をつけてから、しばらく彼は歩かなかった。
ただ、立っていた。
目の前に広がる景色を、じっと眺めていた。
雪。
岩。
低い木々。
そして、どこまでも続く白い大地。
海を越える前に見ていた景色と、どこか似ている。
それでも、何かが違う。
風の匂い。
雪の積もり方。
遠くに見える山の形。
すべてが、ほんの少しずつ違っていた。
彼はしゃがみ込み、地面の雪を手に取った。
そして笑う。
「同じ雪なのに、違うんだな。」
もちろん、雪が話してくれるわけではない。
それでも、長い旅を続けてきた彼には、その土地ごとの違いが少しずつ分かるようになっていた。
彼は最初の紙を取り出す。
新しい土地の記録。
まず海岸線。
次に山。
川。
木々。
そして、動物の足跡。
一つずつ描いていく。
しばらく歩くと、雪が少しずつ減ってきた。
地面が見える。
植物も増えていく。
彼は足を止めた。
「こっちは少し暖かい。」
ほんのわずかな違いだった。
だが、それだけで彼は嬉しくなった。
世界はつながっている。
しかし、場所によって少しずつ違う。
その違いを見つけることが、彼の旅の楽しみになっていた。
数日後。
彼は海岸から離れ、内陸へ向かった。
すると、今まで見たことのないほど大きな山々が現れた。
遠くからでも、その存在が分かる。
山の頂には雪が残り、雲がその周囲を流れている。
彼はしばらく見上げた。
「大きいな。」
近づいてみる。
さらに近づく。
それでも山は大きいままだった。
彼は地図に山の位置を書き込む。
だが、山を一つ描いただけでは終わらなかった。
山脈は、どこまでも続いていた。
「……これ、いつまで続くんだろう。」
少しだけ不安になる。
だが、それ以上に楽しみだった。
山を越えれば、その先に何があるのか。
川を下れば、どこへたどり着くのか。
彼は考えるだけで胸が高鳴った。
その日の夕方。
高い場所から周囲を見渡す。
海は、もう見えない。
自分がどれほど遠くまで来たのか分からない。
彼は地図を広げる。
南の大陸から始まり、北へ向かって描き続けた道。
そして、その先にある新しい大地。
紙を並べてみる。
彼はしばらく黙っていた。
「……まだ、つながっている。」
海を越えたはずなのに。
世界は終わらなかった。
むしろ、ここからまた始まっている。
彼は新しい紙を取り出した。
白紙だった。
そこへ、最初の一本線を引く。
「ここから描こう。」
夕日が大地を照らす。
彼は荷物を背負い直した。
そして、まだ名前も知らない土地を歩き始める。
彼はまだ知らなかった。
この先に、自分がこれまで見たことのないほど巨大な大地が広がっていることを。
そしていつか、その大きさに驚きながら、こう思うことになる。
――北の大地は、大きすぎた。
でも、この大地は
桁が違う。
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