第6話 分かれ道の先へ

十九歳。


少年は、完成した南の大陸の地図を丁寧に荷物へしまうと、再び北へ歩き始めた。


目指す場所は決めていない。


ただ、海岸線が続く限り、その先へ。


それが彼の旅だった。


海は毎日違う表情を見せた。


穏やかな日もあれば、激しく波が打ち寄せる日もある。


彼は海岸線の曲がり方を一本一本確かめながら歩いた。


少しでも気になる場所があれば、遠回りをしてでも確かめる。


「急ぐ理由なんて、ない。」


それが彼の旅の流儀だった。


数か月後。


彼は不思議な景色に出会う。


これまで歩いてきた海岸線とは違い、大地が細くなっている。


左にも海。


右にも海。


まるで世界が細い糸でつながっているようだった。


彼は高い丘へ登り、その景色を眺める。


「……変な場所だ。」


海がこんなにも近くに二つある場所など、見たことがなかった。


その日は朝から夕方まで歩き続けたが、大地は細いままだった。


夜になると、焚き火の前で紙を広げる。


今日歩いた地形を描き込みながら、彼は独り言を漏らした。


「ここは……いつか大事になる。」


理由は分からない。


しかし、この細い土地が、世界の形を知るうえで重要な場所だということだけは直感していた。


翌朝。


彼は細い大地をさらに歩き続ける。


途中、足元の土を触り、石を拾い、木々の種類まで記録した。


景色だけではなく、その土地そのものを残したかったからだ。


数日後。


ようやく大地は再び広がり始めた。


彼は思わず立ち止まり、深く息をつく。


「つながっていたんだ。」


南の大陸と、北の大陸。


別々の世界だと思っていた二つの大地は、ほんのわずかな土地で結ばれていた。


その事実に、彼は胸を躍らせた。


「世界って、本当に面白い。」


もし、この細い場所を見落としていたら。


彼は二つの大陸を、まったく別のものとして描いていたかもしれない。


ほんの少し遠回りをしただけで、世界の姿は大きく変わる。


そのことを、彼は身をもって知った。


歩くことに無駄はない。


見ることに無駄はない。


そう思うと、自然と足取りも軽くなった。


北へ進むにつれて、森はさらに深くなり、生き物の姿も変わっていく。


見たことのない鳥。


見たことのない花。


そして、どこまでも続く大地。


彼は歩きながら、ふと笑った。


「この大陸は、どれくらい大きいんだろう。」


その答えは、まだ誰も知らない。


彼自身でさえ、想像していなかった。


この先、自分が歩くことになる距離が、南の大陸をはるかに超えるものになることを。


彼は、新しい紙を一枚取り出した。


そして、迷いなく最初の一本線を引く。


世界地図の、新しい一ページが始まった。

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