第5話 さらに、たくさんある
十九歳。
旅を始めて三年。
少年は、ついに南の大陸を歩き終えようとしていた。
最後の海岸線を描き終えると、彼は静かに腰を下ろした。
目の前には、どこまでも続く青い海。
波の音だけが聞こえていた。
彼は荷物から、今まで描き続けてきた紙の束を取り出す。
一枚。
また一枚。
風で飛ばされないよう石を置きながら、慎重につなげていく。
海岸線。
山脈。
川。
森。
草原。
三年間歩き続けた景色が、少しずつ一つの大陸になっていく。
「……できた。」
それは彼が初めて完成させた、一つの大陸だった。
もちろん、一枚の紙には収まらない。
何万枚もの紙を並べて、ようやく形になる。
それでも彼は満足そうに微笑んだ。
「ちゃんと、一つにつながる。」
誰に見せるわけでもない。
誰かに褒められるわけでもない。
それでも、胸がいっぱいになる。
旅は間違っていなかった。
その証拠が、目の前に広がっていた。
その夜。
焚き火の前で、彼はあることを始める。
歩いた日数。
一日に歩いた距離。
曲がった場所。
海岸線の長さ。
山道で進めなかった日。
それらを一つずつ数え始めた。
何日もかけて書き留めてきた記録。
そのすべてを見返し、一本の線としてつないでいく。
そして、ある数字が浮かび上がった。
「……およそ四万。」
単位という概念はまだない。
それでも彼は、自分が歩き、測り、積み重ねた結果として、その数字を書き留めた。
もし世界が丸いなら。
その一周は、およそ四万。
もちろん、それは偶然だった。
だが現代の人類が知る地球の全周――約四万キロメートルという値に、驚くほど近かった。
しかし、彼はそんなことを知るはずもない。
彼は完成した地図を見つめながら、小さく首をかしげた。
「……これで終わりかな。」
しばらく考えたあと、彼は海の向こうを見つめる。
海岸線を歩いている途中。
何度も見つけた、不自然な分かれ道。
さらに北へ続く大地。
そして、まだ見ていない景色。
彼は静かに笑った。
「いや。」
「まだ続いている。」
世界は、この大陸だけでは終わらない。
そう思うと、不思議なくらい心が躍った。
疲れよりも。
不安よりも。
期待のほうが、ずっと大きかった。
「さらに、たくさんある。」
その一言を残し、彼は地図を丁寧に丸める。
まだ白紙の紙は、山のように残っている。
それを見て、彼は嬉しそうに笑った。
「全部使い切れるかな。」
翌朝。
朝日に照らされた海を背に、彼は北へ歩き始める。
この先に、どれほど広い世界が待っているのか。
まだ、誰も知らなかった。
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