第4話 終わらない南アメリカ
旅に出て一年。
少年は十七歳になっていた。
故郷を出たばかりの頃は、毎日が不安だった。
食べ物は見つかるのか。
夜は安全なのか。
この先に人は住んでいるのか。
そんな心配ばかりしていた。
しかし一年も歩き続けると、その生活が当たり前になっていた。
朝日とともに目を覚ます。
地図を描きながら歩く。
日が傾けば野営の場所を探し、焚き火を囲みながら一日の記録を書く。
その繰り返しだった。
狩りで鍛えられた体は、長旅にも耐えられた。
普通の人なら数日で足を痛めるような距離を歩いても、彼は翌朝には何事もなかったかのように歩き始める。
疲れを感じないわけではない。
だが、一晩眠れば回復してしまう。
それは本人ですら、不思議に思うほどだった。
「自分は、歩くために生まれてきたのかもしれない。」
そんなことを考えた日もあった。
旅の途中では、多くの川に出会った。
幅の広い川。
ゆっくり流れる川。
激しく音を立てる川。
彼は一本一本の流れを紙へ描き込んでいく。
川は大地を知るための目印だった。
どこへ流れ、どこで分かれ、どこで海へ注ぐのか。
それを知れば、その土地全体の姿が少しずつ見えてくる。
気づけば、紙の束は腰ほどの高さになっていた。
歩いた場所ごとにまとめた地図。
山だけを描いた紙。
川だけを記した紙。
植物を書き留めた紙。
動物の特徴を描いた紙。
どれ一つとして同じものはない。
彼は一枚たりとも捨てなかった。
「いつか全部、必要になる。」
そう信じていたからだ。
ある日の夕方。
高い丘へ登ると、大きな川が夕日に照らされて輝いていた。
そのあまりの広さに、彼は思わず息をのむ。
「まるで海みたいだ……。」
現在でいうアマゾン川下流域だった。
どこまで見ても川幅が続き、対岸は霞んで見えない。
彼は何日もその周辺を歩き、支流の位置や流れの向きを細かく記録した。
一本の川を描くだけで、何十枚もの紙が埋まっていく。
それでも、不思議と苦にはならなかった。
描けば描くほど、大地の姿が見えてくる。
それが何より楽しかった。
そして、ある夜。
描き終えた地図を地面いっぱいに並べてみる。
隣同士の紙を少しずつ合わせると、川がつながり、山脈がつながり、海岸線が一本の線になった。
「つながった……。」
その瞬間、彼は胸が高鳴った。
一枚では分からなかった景色が、何十枚もの紙を並べることで、一つの世界になっていく。
彼は笑みを浮かべながら、新しい紙を取り出した。
「まだまだ描く場所がある。」
その視線の先には、果てしなく続く大地。
彼はまだ知らない。
この南アメリカ大陸だけでも、自分の想像をはるかに超える広さがあることを。
そして、その先にはさらに巨大な世界が待っていることを。
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