第2話 厄災と呼ばれた少年

十五歳になった彼は、村一番の狩人と呼ばれるほど成長していた。


足は誰よりも速く、獲物の痕跡を見つける力も群を抜いていた。


何より、一度通った森の道を忘れることがない。


村の大人たちは狩りへ出るとき、自然と彼を先頭に立たせるようになっていた。


「お前がいると迷わない。」


それは、彼にとって何よりもうれしい言葉だった。


ある日、いつものように狩りへ出た。


獲物を追い、険しい岩場へ足を踏み入れた、その瞬間だった。


足元の岩が崩れた。


体は大きく宙へ投げ出され、そのまま斜面を転げ落ちる。


鋭い岩が腕や足を切り裂き、体中から血が流れた。


仲間たちは慌てて駆け寄る。


「しっかりしろ!」


幸い命に別状はなかった。


だが、その出来事は村の運命を変える。


彼を助けようとした数人が、数日後から奇妙な症状を訴え始めたのだ。


突然高熱を出す者。


体に赤い発疹が現れる者。


理由もなく激しい倦怠感に襲われる者。


誰一人として原因が分からなかった。


共通していたのは、事故のときに彼の血へ触れていたことだけだった。


村は恐怖に包まれる。


「あの血は普通じゃない。」


「災いを運んできた。」


「森の精霊の怒りだ。」


噂は瞬く間に広がった。


彼自身も、そのことに気づいていた。


自分の血に触れた人だけが体調を崩している。


偶然とは思えなかった。


彼は毎日、村外れの川で腕を洗い続けた。


何度も何度も。


まるで、自分の血を洗い流せると信じるように。


だが、現実は変わらない。


村人たちは彼を見ると距離を置き、子どもたちは近寄らなくなった。


狩りへ誘われることもなくなった。


それでも彼は誰も恨まなかった。


「怖いんだろうな。」


そう思うだけだった。


ある夜、村の長老が静かに彼へ告げた。


「……この村を出てほしい。」


責める口調ではなかった。


しかし、その一言だけで十分だった。


彼は静かにうなずく。


「分かりました。」


家へ戻ると、旅に必要なものを集め始めた。


紙。


筆。


乾かした食料。


そして、小さい頃から描きためてきた村の地図。


荷物は驚くほど少なかった。


夜明け前。


家族は最後まで何も言えなかった。


彼もまた、多くを語らなかった。


「元気で。」


母のその一言だけが、静かな朝に響く。


彼は笑顔を作って答えた。


「行ってきます。」


もう戻れないかもしれない。


それでも、その言葉を選んだ。


村を出た彼は、一度だけ故郷を振り返る。


そして心の中で、小さく誓った。


「いつか、この村も世界地図の中へ描こう。」


こうして、誰からも見送られない旅が始まった。


世界を一枚の紙に描くという、誰も信じない夢のために。

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2026年8月1日 11:00
2026年8月2日 11:00
2026年8月3日 11:00

世界を一枚の紙に描いた男 @fanj

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